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第五章 カレー屋の開店
29.悪者の事情
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縛り上げられた五人の英雄気取りの冒険者パーティーのメンバーたちを俺たちはぐるりと囲んだ。
「師匠、こいつは俺たちの店に関する嘘の噂を流したり、店内の備品にいたずらしたり、それに放火までして度が過ぎる営業妨害を繰り返していたんです」
「どうしてそんなことをしたんじゃ?」
カメムシ仙人は男たちに尋ねた。
「だって、魔王軍が攻めてきたせいで俺たちは職を失ったんだ。冒険者パーティーとして経験を積んで、ようやく魔王を倒しに行くってときに手柄を横取りされちゃ、今までの苦労は台無しだ」
「俺たちは元々畜産農家だ。いくら世界が平和になっても、卵や鶏肉、豚肉なんかいまさら流通させるなんてできない。巷じゃドラゴンの肉のカレーが流行ってるんだから。俺たちは仕事がないままだ」
「手柄を立てた三人は有名になって、おまけに商売でも成功しちゃ、そんなの不公平だ……」
なるほど、そういう裏事情があったとは知らなかった。
さっき攻撃だって、かなり上級の剣裁きだった。
元々畜産農家だった彼らが冒険家に転職してどれほど辛く苦しい修行をしてきたことか。
「まあ、魔王軍の侵攻以来、この世界に孤児や失業者が溢れているのは確かじゃな……」
カメムシ仙人は細い目をさらに細めて言った。
このままじゃ貧富の差が開いて、この世界の治安はどんどん悪くなるだろう。
そんな状態じゃ、いくら魔王を倒したと言っても、この世界を救ったことにはならない。
「実は私も買い出しのときに気付いていました。うちの店へカレーを食べに来たくてもお金がなくて通りから見ているだけの貧しい人々がたくさんいることに。忙しさを言い訳にして見て見ぬふりをしていました」
マギーは申し訳なさそうにそう言った。
アルティだって貧しさから以前は島で観光客の荷物を盗んでいた当事者だ。
「よしわかった! 俺がなんとかする! 俺がこの世界の人々が働けるように大規模な雇用を生み出す!」
「うむ……。おぬしならできる……」
とカメムシ仙人は頷き、冷めたカレーライスをきれいに完食して帰って行った。
冒険者パーティーのメンバーたちの縄を解き、俺が必ず雇うから少し待っていてほしいと彼らと約束した。
「そんなこと本当にできるのか……?」
「ああ、約束する」
俺はその日の営業が終わった後、魔王との戦いで職を失った人々のために雇用を生み出そうとマギーとアルティと共に作戦会議した。
「この辺りの大きな町にカレー勇者の第二、第三号店を開店させてアルバイトを雇うのはどうでしょう」
「そうだね。あと、カレーをパンに入れて油で揚げたカレーパンっていう食べ物も美味しいんだよ。カレーパンのキッチンカーをたくさん走らせてスポーツの試合会場や観光名所なんかで売るのもいいよね」
「カレーパン食べてみたいっ!」
アルティがそう言うからさっそく試作品を作ってみることにした。
「自社のスパイス農場と加工工場を作り、人を雇うのはどうです。そうしたらスパイス集めの手間が減ります」
パン生地を捏ねながら俺たちは話し続けた。
「いいアイデアだ。そのカレー粉を販売するのは? 家でも作れたらみんなカレーを食べるんじゃないかな?」
「じゃあ魔法教室のように、カレー料理の教室をやれば人が集まるかもしれませんね。ほら、この世界にはまだカレーっていう料理を知らない人が多いから。初心者向けのコースから、カレーパンを作るコース、お店を開きたいっていうプロ志向のコースまで、色々なコースを用意したらどうでしょう」
「逆に僕みたいに料理なんてしない人もいるよ。お店からのテイクアウトや、配達サービスなんてあると助かるなぁ。それなら病院にいるサンドラにもカレーを食べさせてやれるし。市場なんかでも売ってる缶入りスープとかレトルトスープみたいに、カレーも缶入りやレトルトでも販売できればテント暮らしのトレジャーハンターにウケそうだ」
俺たちのアイディアはつきなかった。
「ああ、いい匂い……」
きつね色にこんがりと揚がったカレーパンを俺たちは試食した。
「これはまたカレーライスとは違った美味しさですね」
「うわー、カリカリ、サクサクだ」
二人はカレーパンを喜んで食べてくれた。
「師匠、こいつは俺たちの店に関する嘘の噂を流したり、店内の備品にいたずらしたり、それに放火までして度が過ぎる営業妨害を繰り返していたんです」
「どうしてそんなことをしたんじゃ?」
カメムシ仙人は男たちに尋ねた。
「だって、魔王軍が攻めてきたせいで俺たちは職を失ったんだ。冒険者パーティーとして経験を積んで、ようやく魔王を倒しに行くってときに手柄を横取りされちゃ、今までの苦労は台無しだ」
「俺たちは元々畜産農家だ。いくら世界が平和になっても、卵や鶏肉、豚肉なんかいまさら流通させるなんてできない。巷じゃドラゴンの肉のカレーが流行ってるんだから。俺たちは仕事がないままだ」
「手柄を立てた三人は有名になって、おまけに商売でも成功しちゃ、そんなの不公平だ……」
なるほど、そういう裏事情があったとは知らなかった。
さっき攻撃だって、かなり上級の剣裁きだった。
元々畜産農家だった彼らが冒険家に転職してどれほど辛く苦しい修行をしてきたことか。
「まあ、魔王軍の侵攻以来、この世界に孤児や失業者が溢れているのは確かじゃな……」
カメムシ仙人は細い目をさらに細めて言った。
このままじゃ貧富の差が開いて、この世界の治安はどんどん悪くなるだろう。
そんな状態じゃ、いくら魔王を倒したと言っても、この世界を救ったことにはならない。
「実は私も買い出しのときに気付いていました。うちの店へカレーを食べに来たくてもお金がなくて通りから見ているだけの貧しい人々がたくさんいることに。忙しさを言い訳にして見て見ぬふりをしていました」
マギーは申し訳なさそうにそう言った。
アルティだって貧しさから以前は島で観光客の荷物を盗んでいた当事者だ。
「よしわかった! 俺がなんとかする! 俺がこの世界の人々が働けるように大規模な雇用を生み出す!」
「うむ……。おぬしならできる……」
とカメムシ仙人は頷き、冷めたカレーライスをきれいに完食して帰って行った。
冒険者パーティーのメンバーたちの縄を解き、俺が必ず雇うから少し待っていてほしいと彼らと約束した。
「そんなこと本当にできるのか……?」
「ああ、約束する」
俺はその日の営業が終わった後、魔王との戦いで職を失った人々のために雇用を生み出そうとマギーとアルティと共に作戦会議した。
「この辺りの大きな町にカレー勇者の第二、第三号店を開店させてアルバイトを雇うのはどうでしょう」
「そうだね。あと、カレーをパンに入れて油で揚げたカレーパンっていう食べ物も美味しいんだよ。カレーパンのキッチンカーをたくさん走らせてスポーツの試合会場や観光名所なんかで売るのもいいよね」
「カレーパン食べてみたいっ!」
アルティがそう言うからさっそく試作品を作ってみることにした。
「自社のスパイス農場と加工工場を作り、人を雇うのはどうです。そうしたらスパイス集めの手間が減ります」
パン生地を捏ねながら俺たちは話し続けた。
「いいアイデアだ。そのカレー粉を販売するのは? 家でも作れたらみんなカレーを食べるんじゃないかな?」
「じゃあ魔法教室のように、カレー料理の教室をやれば人が集まるかもしれませんね。ほら、この世界にはまだカレーっていう料理を知らない人が多いから。初心者向けのコースから、カレーパンを作るコース、お店を開きたいっていうプロ志向のコースまで、色々なコースを用意したらどうでしょう」
「逆に僕みたいに料理なんてしない人もいるよ。お店からのテイクアウトや、配達サービスなんてあると助かるなぁ。それなら病院にいるサンドラにもカレーを食べさせてやれるし。市場なんかでも売ってる缶入りスープとかレトルトスープみたいに、カレーも缶入りやレトルトでも販売できればテント暮らしのトレジャーハンターにウケそうだ」
俺たちのアイディアはつきなかった。
「ああ、いい匂い……」
きつね色にこんがりと揚がったカレーパンを俺たちは試食した。
「これはまたカレーライスとは違った美味しさですね」
「うわー、カリカリ、サクサクだ」
二人はカレーパンを喜んで食べてくれた。
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