上 下
102 / 125
続編 第四章 ヌーディストビーチで告白 (龍之介side)

続36.僕らの計画

しおりを挟む
 怜一郎さんが染川さんと浮気したことを僕はちっとも怒っていない。なぜなら怜一郎さんが染川さんと再会したことは偶然なんかじゃなく、僕らが仕組んだことだからだ。

 今でももちろん僕は怜一郎さんのことが好きで好きでたまらない。ニューヨークに来てから、結婚してそばにいられるだけで毎日本当に幸せだ。だけど、僕はずっと小さな悩みを抱えていた。それは怜一郎さんから未だに一度も「好きだ」って言われたことがないということだ。

 怜一郎さんはクールだから、「一緒にいる」ということがもう「好き」ということなのかもしれない。でも、やっぱり僕は愛する怜一郎さんの口から「好きだ」って言葉を聞きたいのだ。

 ニューヨークに来てから怜一郎さんは来る日も来る日も自宅でピアノばかり弾いて過ごしていた。演奏に熱中する彼の横顔を見るのは好きだけど、僕は二人でデートもしたいしもっと思いっきりイチャイチャしたかった。なのに、彼はピアノの練習が忙しいからと僕を拒絶し、ピアニストとして働きに出たいと繰り返した。

 怜一郎さんから離れるつもりなんて全くないけど、彼に嫉妬してほしくて僕は怜一郎さんにわざと聞こえるようにエリカさんと連絡を取っていた。ヤキモチを妬いてほしくて……。僕は寂しかったんだ。

 染川天真さんに仕事の依頼を受けたのはそんな時だった。
 日本からの輸入品を多く取り扱う僕の噂を聞いて連絡をくれたのだとメールに記されていた。

 街中のカフェで僕は染川さんに会った。
「新たに購入した日本風のアトリエの照明器具や家具を探しているんだ。費用はいくらかかっても構わないから職人が作った上等なものを日本から取り寄せてもらえるかな?」
 金に糸目をつけないなんて、さすがは世界的芸術家だと僕は感心した。

 インテリアのイメージを詳細に聞き、
「では後日カタログをお持ちしますので。今日はありがとうございました」
 僕が席を立ったとき、彼は突然、
「ねえ、あの豪華客船でランウェイを歩いていたのは宝条怜一郎だろう?」
 と言い出したのだ。

 耳を疑った。驚いて固まっている僕に染川さんはフフと笑顔を見せた。
「そんなに驚くなよ。知り合いのデザイナーのショーだったから招待されて最前列で見ていたんだ。まさか昔の教え子をあんな場所で見かけるなんてね」
「教え子……?」
 染川さんは背中に冷や汗を伝わせている僕を楽しそうに見ていた。
「座って。コーヒーのお代わりを注文したまえよ」

 染川さんは怜一郎さんの芸術的美のポテンシャルを最大限に引き出して自分の作品にしたいのだと言った。
「昔からそうだ、怜一郎は僕の感性をガンガン刺激する唯一の人間なんだ……20年ぶりに再会して思い知ったよ」

「怜一郎さんをどうしたいと思っているのですか?」
 僕の大事な人を奪い取ろうとしているのか、と僕は警戒した。けれどよく聞くと染川さんは怜一郎さんを自分の作品へ使用したいだけで、それ以上の感情はないのだとわかった。

 きれいな顔でニタニタ笑う染川さんに僕は底知れない恐怖を感じていた。怜一郎さんを危険な目に合わせることはしたくないから、その場では迂闊な返事はせずにまた後日会いましょうと言って別れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

処理中です...