【本編完結】ゲイバレ御曹司 ～ハッテン場のゲイバーで鉢合わせちゃった義弟に脅されています～

続編 第一章 初恋と再会 (怜一郎side)

続７．酔いに任せて誘惑

　このところ俺は欲求不満だった。
　龍之介が日本へ旅立つ少し前から俺は龍之介を拒絶していた。ベッドの中で龍之介は俺の体を後ろから抱きしめてきたが、俺はやめろと突き放した。エリカと子供に会いに行こうとしている龍之介に抱かれるなんて嫌だったのだ。

　それに最近の龍之介のセックスに俺は飽き飽きしていたというのもある。
　この街で暮らし始めてからの龍之介のセックスは以前と比べるとずいぶんと平凡だ。セックスが平凡だって言葉は変かもしれないが、ほら、龍之介とは仮面ゲイバーの二階で腕を縛られて抱かれたのが最初だったし、ゲイの集う客船パーティーで裸より恥ずかしい格好でランウェイを歩かされたり、菜々美さんとの偽りの結婚式では電動アナルプラグを挿入されたまま式に出させられたりと、あいつの感覚はまともじゃなかった。
　それがこの街で一緒に住むようになってから、リビングでピアノを弾く俺にいたずらすることはあるものの、このところすっかり常識の範囲内のセックスしかしなくなったのだ。以前のように抗えない理由をつけられて辱められるセックスを俺は久しく味わっていない。

　龍之介は俺に飽きてしまっていたのかもしれない。だからエリカと子供の元に「戻って」行ってしまったんだろう……。


　グラスを掴む天真さんの左手に目をやる。指輪はしていない。彼は独身なのだろう。
　俺はグラスをゆすって中の氷を弄びながら少しずつ酒を飲む。俺の左手の薬指の付け根には夕方アルバイトに出てくる前まではめていた指輪の痕が残っている。
　天真さんがちらりとそこを見たのを感じた。違う、俺はあえてそれを見せたんだ。

「今朝まで男と暮らしていたんです」
　グラスの中の酒を煽って、俺はねっとりと天真さんを見た。
　ムラムラする感情に任せて、彼を誘惑しようと思った。

「今朝まで……？」
「奴は俺を置いて、元妻と子供の元へ行ってしまいました」
　天真さんはいつも通りの朗らかな表情で俺を見ていた。その仮面の奥に隠された彼の嗜虐性を想像して、俺はゴクッと喉を鳴らした。

「相手はバイだったんだ？」
　天真さんは落ち着いた優しい声で尋ねた。
「わかりません、形だけの契約結婚で子供も人工授精でできた子だと言っていましたが、今となってはその話も嘘かもしれません……」

　俺、すごく酔っている。龍之介がエリカと子供を選んでしまったという事実に俺は内心ひどく傷ついていたんだと思い知った。
　龍之介みたいな「やさお」はタイプじゃないとか、向こうが俺を好きだ好きだと言うから今まで一緒にいただけとか、そう自分に言い聞かせてきたけど、実際は俺が捨てられたんだってわかっている。

「……結局、男同士なんて無理があったんですよね」
　誰でもいいから俺の鬱憤を晴らしてほしい。それがずっと忘れられなかった天真さんなら最高だ。

　こんなタイミングで再会したなんて運命を感じる。
　俺は天真さんにあの甘い罰の続きをしてほしかった。

「男同士だからってわけじゃない。僕なら君を幸せにしてあげられるよ……」
　天真さんは右手を差し出した。俺は迷うことなくその手を取った。