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続編 第一章 初恋と再会 (怜一郎side)
続1.日本へ戻りませんか?
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あれから俺は龍之介がニューヨーク郊外に購入した家のリビングでピアノばかりを弾いて過ごしていた。
親の会社の跡取りにならなければならず、一度はあきらめたピアニストになる夢をまたこうして夢中で追いかけられる日がくるなんて。俺は毎日が楽しくて仕方がなかった。
「怜一郎さん、コーヒーを淹れましたよ。少し休憩しませんか?」
俺が手を止めたタイミングで龍之介が声をかけてきた。
「ああ」
バルコニーのガーデンテーブルへ彼はコーヒーの入ったカップとチーズタルトの乗った皿をそれぞれ並べていた。秋晴れの日差しが穏やかな午後で、庭でくつろぐのが心地良い。
11月に入り、庭の木々も紅葉し色鮮やかだ。庭の中央にはハナミズキの大木があるのだが、この家に移り住んだ頃にはピンクの花を咲かせていたその木が今は葉を赤く色づかせ小さな実をつけている。
「朝晩冷えると思っていたら、いつの間にかこんなに秋が深まっていたんだな。もう冬もすぐそこだなぁ……」
「そうですね。この家に二人で暮らし始めて、早いものでもう半年になりますからね」
庭木を眺めながらチーズタルトを食べていた龍之介が唐突にこう切り出した。
「怜一郎さん、僕と一緒に日本へ戻りませんか?」
予想していなかった言葉に、俺は驚いて飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
日本へ戻る……? 龍之介は突然何を言い出すのか。ここが安住の地だと俺は思っていたのに。
「今更、日本に戻ろうって、どうして……?」
「ああ、戻ると言ってもずっとじゃなく一週間ほどの予定ですよ」
龍之介はヘラヘラと笑った。
「実は僕、仕事でちょっとトラブルがあって、どうしても来週日本へ行って業者と直接交渉しなければならなくなってしまったんです。……怜一郎さんも一緒に行きませんか?」
「は? 何言ってるんだよ、俺は行かない。……っていうか、行けないだろっ!」
自分が継ぐことになっていた親の会社、宝条ホールディングスの悪事を俺が暴露したことにより父親は逮捕された。逃げるように一人でニューヨークへやってきた俺が今更、どんな顔をして帰れるというのか。
「いえ、別に怜一郎さんの実家へ行くわけではないですよ? 僕は一度京都の業者のところへ行かないといけないのですが、その後で怜一郎さんと京都の寺院を巡るロマンチックなデートなんかがしたいななんて思いまして。日本も今頃紅葉が見ごろな時期でしょうし」
「俺は忙しい。お前一人で行けよ」
くだらない、とため息をついて俺はコーヒーカップを手にバルコニーからグランドピアノのあるリビングへと戻った。
なんだ、仕事の都合か。俺はてっきり龍之介が日本へ帰りたくなったのかと思った。契約結婚した元妻である俺の妹エリカと、二人の間に生まれた子供に会いたいんじゃないかと……。
親の会社の跡取りにならなければならず、一度はあきらめたピアニストになる夢をまたこうして夢中で追いかけられる日がくるなんて。俺は毎日が楽しくて仕方がなかった。
「怜一郎さん、コーヒーを淹れましたよ。少し休憩しませんか?」
俺が手を止めたタイミングで龍之介が声をかけてきた。
「ああ」
バルコニーのガーデンテーブルへ彼はコーヒーの入ったカップとチーズタルトの乗った皿をそれぞれ並べていた。秋晴れの日差しが穏やかな午後で、庭でくつろぐのが心地良い。
11月に入り、庭の木々も紅葉し色鮮やかだ。庭の中央にはハナミズキの大木があるのだが、この家に移り住んだ頃にはピンクの花を咲かせていたその木が今は葉を赤く色づかせ小さな実をつけている。
「朝晩冷えると思っていたら、いつの間にかこんなに秋が深まっていたんだな。もう冬もすぐそこだなぁ……」
「そうですね。この家に二人で暮らし始めて、早いものでもう半年になりますからね」
庭木を眺めながらチーズタルトを食べていた龍之介が唐突にこう切り出した。
「怜一郎さん、僕と一緒に日本へ戻りませんか?」
予想していなかった言葉に、俺は驚いて飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
日本へ戻る……? 龍之介は突然何を言い出すのか。ここが安住の地だと俺は思っていたのに。
「今更、日本に戻ろうって、どうして……?」
「ああ、戻ると言ってもずっとじゃなく一週間ほどの予定ですよ」
龍之介はヘラヘラと笑った。
「実は僕、仕事でちょっとトラブルがあって、どうしても来週日本へ行って業者と直接交渉しなければならなくなってしまったんです。……怜一郎さんも一緒に行きませんか?」
「は? 何言ってるんだよ、俺は行かない。……っていうか、行けないだろっ!」
自分が継ぐことになっていた親の会社、宝条ホールディングスの悪事を俺が暴露したことにより父親は逮捕された。逃げるように一人でニューヨークへやってきた俺が今更、どんな顔をして帰れるというのか。
「いえ、別に怜一郎さんの実家へ行くわけではないですよ? 僕は一度京都の業者のところへ行かないといけないのですが、その後で怜一郎さんと京都の寺院を巡るロマンチックなデートなんかがしたいななんて思いまして。日本も今頃紅葉が見ごろな時期でしょうし」
「俺は忙しい。お前一人で行けよ」
くだらない、とため息をついて俺はコーヒーカップを手にバルコニーからグランドピアノのあるリビングへと戻った。
なんだ、仕事の都合か。俺はてっきり龍之介が日本へ帰りたくなったのかと思った。契約結婚した元妻である俺の妹エリカと、二人の間に生まれた子供に会いたいんじゃないかと……。
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