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第八章 やっと手に入れた僕だけの…… (龍之介side)
61.僕と怜一郎さんの結婚式
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洗面所から戻ってきた怜一郎さんに、
「そう言えば怜一郎さんはカバンを紛失したんじゃないですか?」
と尋ねた。
「はは、その通りだ。日本の家族の元へ連絡がいくと嫌だから盗まれた荷物のことは警察に言っていないんだが」
僕はクローゼットからぼろぼろにされた状態の彼のカバンを取り出した。
「えっ!? 何でお前が持ってるんだよ」
「探しておきました」
正確にはエージェントに追跡させ、探させておいたのだが。
財布の中の現金とスマホは盗まれていたが、隠しポケットに入れていたパスポートは無事だった。
「クレジットカードは?」
「いや、持ち歩いていないんだ」
僕は少し驚いた。怜一郎さんは今時、現金主義なのか?
僕たちは朝食を食べにホテルの一階のカフェへ行った。
コーヒーを飲みながら怜一郎さんは、
「お前、これからどうする気でいるんだ?」
と僕に尋ねた。
「俺は日本を出る前に会社の不正をリークしてきたんだ、もう日本へは帰れない。お前は知らないだろうけど、宝条ホールディングスは政治家へ多額の賄賂を渡し、その見返りに色々な摘発を免れたり、独占的に公的な事業の受注を受けたりしていたんだ。そんなズルをして大きくなった会社の後を継ぐなんて嫌になったんだ……」
談合や天下りなんていくら禁止されていたって世の中では普通にあることだ。
頭のいい怜一郎さんがそれをわかっていないなんてことないだろう。
幼い頃から大企業の令息として生きてきたのだからなおさらだ。
本当に彼が嫌になったのは偽装結婚の方だろう。
自分を偽りすぎて、とうとう彼に心の限界がきてしまったんだ。
「僕も日本へ帰る気はありませんよ」
彼は目を見開いた。昨夜だって僕はそう言っていたのに僕が酔って言ったとでも思っていたのだろうか。
僕はいつだってあなたのそばがいいんですよ、怜一郎さん。
「郊外に家を買いましょうか。実は良さそうな物件を見つけてあるんです。家具がついていてすぐにでも入居できますし、それにグランドピアノがあるんです。怜一郎さんはきっと気に入ると思うんです」
こういう展開になるんじゃないかと思って、エージェントに探させておいたのだ。
輸入代行の仕事で得た金をうまいこと株で運用していたので、僕には数十億円の資産がある。ちょっとした家ならすぐ買える。
怜一郎さんだって預金はそれなりにあるはずだけど。
「家なんて買っても意味がないだろ。ビザがない俺たちはそう長くこの町にいられないんだから」
怜一郎さんは肩を落とした。
「じゃあ僕と結婚してください……。そうしたらこの町に住めます……」
「は? お前、何言って……」
「僕には永住権があるんですよ。言いませんでしたっけ? 偶然、父親の仕事の都合で両親がアメリカにいるときに僕は生まれたので、アメリカと日本の両方の国籍を持っているんです」
ジャケットのポケットから日本とアメリカの二枚のパスポートを出して彼に見せた。
「嘘だろう……、日本では二重国籍なんて認められていないはずだ。子供のうちならともかく大人になったらどちらかの国籍を選択しないとまずいんだろう」
「ふふ、世の中これですよ。大金を積めばどうにでもなるんです」
僕は右手の人差し指と親指で丸を作って金のジェスチャーをした。
「まったくお前は……」
と怜一郎さんは呆れながらも安堵していた。
「アメリカ人でもある僕と結婚すれば、配偶者ビザでこの町に住めますよ。本来なら配偶者ビザも発効までに時間がかかりますが、それもまたこれでどうにでもなります」
僕はもう一度、右手の指先で丸を作った。
翌日、ニューヨークの郊外にある小さな教会で僕らは結婚式をした。
プロポーズの翌日に結婚式をしたのは彼の気が変わる前に早く行ってしまいたかったからだ。
ウエディングドレスを着てほしいと怜一郎さんに頼んだが、
「なんだよ、お前、そんなことを言うなんて、やっぱり女性と結婚したかったんじゃないか?」
と言われてしまった。
違う、そうじゃなくて、僕は怜一郎さんの恥ずかしがる顔を見るとたまらなく興奮するからその姿が見たいんです、と反論したかったが、変態呼ばわりされそうなので黙っていた。
僕は教会の牧師さんに冗談交じりに英語で、
「僕たちは二度目の結婚ですからリハーサルは必要ないみたいです」
と伝えた。牧師さんも笑顔で、
「なるほど、それはいい。スムーズに事が運ぶ」
と笑ってくれた。
参列者のいない静かな教会で、僕たちはタキシードを着て神に愛を誓うことになった。
ああ、すごい幸せ……。
怜一郎さんへの愛を神に誓えるだなんて……。
牧師さんに愛を誓うかと尋ねられ、
「I will」
と僕は答えた。
怜一郎さんも同じ質問を受け、照れくさそうに目元を赤く染め、
「I will……」
と答えてくれた。
僕はもう嬉しすぎて泣き出しそうだった。
牧師さんが指輪交換をと言い、指輪を差し出した。
怜一郎さんは驚いて僕の顔を見た。
実は僕は彼に内緒で結婚指輪を用意していたのだ。
偽装結婚をしたとき、僕はエリカさんとの、怜一郎さんは菜々美さんとの結婚指輪をそれぞれ結婚式の前に作って当日の披露宴の間だけは左手の薬指に嵌めていたけど、四人とも式の後はその指輪を誰もつけていなかった。
エリカさんと菜々美さんはこっそりと結婚指輪によく似たデザインのペアリングを二人で作って左手の薬指に嵌めていた。
周囲の人々は彼女たちが僕らとの結婚指輪を嵌めていると思っていたことだろう。
僕はそれをちょっと羨ましく思っていて、僕もいつか怜一郎さんとお揃いの指輪を嵌めたいとずいぶん前に発注していたのだ。
彼のために僕が用意した揃いの指輪を僕は彼の左手の薬指へ嵌めた。
「お前、いつの間に、用意して……」
「ふふ、僕にも嵌めてもらえますか?」
「ああ……」
ぎこちなく僕の手を取り、彼は指輪を嵌めてくれた。
「誓いのキスを……」
と牧師さんに言われ、僕は怜一郎さんの肩へ触れた。
彼はすごく恥ずかしがっていて、もう僕はキュンキュンして今すぐ彼を押し倒したい気持ちだった。
僕は薄くて形のいい、柔らかな唇へしっかりと自分の唇を押し当てた。
「そう言えば怜一郎さんはカバンを紛失したんじゃないですか?」
と尋ねた。
「はは、その通りだ。日本の家族の元へ連絡がいくと嫌だから盗まれた荷物のことは警察に言っていないんだが」
僕はクローゼットからぼろぼろにされた状態の彼のカバンを取り出した。
「えっ!? 何でお前が持ってるんだよ」
「探しておきました」
正確にはエージェントに追跡させ、探させておいたのだが。
財布の中の現金とスマホは盗まれていたが、隠しポケットに入れていたパスポートは無事だった。
「クレジットカードは?」
「いや、持ち歩いていないんだ」
僕は少し驚いた。怜一郎さんは今時、現金主義なのか?
僕たちは朝食を食べにホテルの一階のカフェへ行った。
コーヒーを飲みながら怜一郎さんは、
「お前、これからどうする気でいるんだ?」
と僕に尋ねた。
「俺は日本を出る前に会社の不正をリークしてきたんだ、もう日本へは帰れない。お前は知らないだろうけど、宝条ホールディングスは政治家へ多額の賄賂を渡し、その見返りに色々な摘発を免れたり、独占的に公的な事業の受注を受けたりしていたんだ。そんなズルをして大きくなった会社の後を継ぐなんて嫌になったんだ……」
談合や天下りなんていくら禁止されていたって世の中では普通にあることだ。
頭のいい怜一郎さんがそれをわかっていないなんてことないだろう。
幼い頃から大企業の令息として生きてきたのだからなおさらだ。
本当に彼が嫌になったのは偽装結婚の方だろう。
自分を偽りすぎて、とうとう彼に心の限界がきてしまったんだ。
「僕も日本へ帰る気はありませんよ」
彼は目を見開いた。昨夜だって僕はそう言っていたのに僕が酔って言ったとでも思っていたのだろうか。
僕はいつだってあなたのそばがいいんですよ、怜一郎さん。
「郊外に家を買いましょうか。実は良さそうな物件を見つけてあるんです。家具がついていてすぐにでも入居できますし、それにグランドピアノがあるんです。怜一郎さんはきっと気に入ると思うんです」
こういう展開になるんじゃないかと思って、エージェントに探させておいたのだ。
輸入代行の仕事で得た金をうまいこと株で運用していたので、僕には数十億円の資産がある。ちょっとした家ならすぐ買える。
怜一郎さんだって預金はそれなりにあるはずだけど。
「家なんて買っても意味がないだろ。ビザがない俺たちはそう長くこの町にいられないんだから」
怜一郎さんは肩を落とした。
「じゃあ僕と結婚してください……。そうしたらこの町に住めます……」
「は? お前、何言って……」
「僕には永住権があるんですよ。言いませんでしたっけ? 偶然、父親の仕事の都合で両親がアメリカにいるときに僕は生まれたので、アメリカと日本の両方の国籍を持っているんです」
ジャケットのポケットから日本とアメリカの二枚のパスポートを出して彼に見せた。
「嘘だろう……、日本では二重国籍なんて認められていないはずだ。子供のうちならともかく大人になったらどちらかの国籍を選択しないとまずいんだろう」
「ふふ、世の中これですよ。大金を積めばどうにでもなるんです」
僕は右手の人差し指と親指で丸を作って金のジェスチャーをした。
「まったくお前は……」
と怜一郎さんは呆れながらも安堵していた。
「アメリカ人でもある僕と結婚すれば、配偶者ビザでこの町に住めますよ。本来なら配偶者ビザも発効までに時間がかかりますが、それもまたこれでどうにでもなります」
僕はもう一度、右手の指先で丸を作った。
翌日、ニューヨークの郊外にある小さな教会で僕らは結婚式をした。
プロポーズの翌日に結婚式をしたのは彼の気が変わる前に早く行ってしまいたかったからだ。
ウエディングドレスを着てほしいと怜一郎さんに頼んだが、
「なんだよ、お前、そんなことを言うなんて、やっぱり女性と結婚したかったんじゃないか?」
と言われてしまった。
違う、そうじゃなくて、僕は怜一郎さんの恥ずかしがる顔を見るとたまらなく興奮するからその姿が見たいんです、と反論したかったが、変態呼ばわりされそうなので黙っていた。
僕は教会の牧師さんに冗談交じりに英語で、
「僕たちは二度目の結婚ですからリハーサルは必要ないみたいです」
と伝えた。牧師さんも笑顔で、
「なるほど、それはいい。スムーズに事が運ぶ」
と笑ってくれた。
参列者のいない静かな教会で、僕たちはタキシードを着て神に愛を誓うことになった。
ああ、すごい幸せ……。
怜一郎さんへの愛を神に誓えるだなんて……。
牧師さんに愛を誓うかと尋ねられ、
「I will」
と僕は答えた。
怜一郎さんも同じ質問を受け、照れくさそうに目元を赤く染め、
「I will……」
と答えてくれた。
僕はもう嬉しすぎて泣き出しそうだった。
牧師さんが指輪交換をと言い、指輪を差し出した。
怜一郎さんは驚いて僕の顔を見た。
実は僕は彼に内緒で結婚指輪を用意していたのだ。
偽装結婚をしたとき、僕はエリカさんとの、怜一郎さんは菜々美さんとの結婚指輪をそれぞれ結婚式の前に作って当日の披露宴の間だけは左手の薬指に嵌めていたけど、四人とも式の後はその指輪を誰もつけていなかった。
エリカさんと菜々美さんはこっそりと結婚指輪によく似たデザインのペアリングを二人で作って左手の薬指に嵌めていた。
周囲の人々は彼女たちが僕らとの結婚指輪を嵌めていると思っていたことだろう。
僕はそれをちょっと羨ましく思っていて、僕もいつか怜一郎さんとお揃いの指輪を嵌めたいとずいぶん前に発注していたのだ。
彼のために僕が用意した揃いの指輪を僕は彼の左手の薬指へ嵌めた。
「お前、いつの間に、用意して……」
「ふふ、僕にも嵌めてもらえますか?」
「ああ……」
ぎこちなく僕の手を取り、彼は指輪を嵌めてくれた。
「誓いのキスを……」
と牧師さんに言われ、僕は怜一郎さんの肩へ触れた。
彼はすごく恥ずかしがっていて、もう僕はキュンキュンして今すぐ彼を押し倒したい気持ちだった。
僕は薄くて形のいい、柔らかな唇へしっかりと自分の唇を押し当てた。
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