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第五章 踏みにじられた俺の心 (怜一郎side)
39.自暴自棄な衝動
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気が付いたら俺はフラフラとあてもなく夜の街を歩いていた。
やっぱり龍之介はエリカを愛していたんだ……。
本当は俺だけを愛していると呟いた彼の言葉は全て嘘だったんだ……。俺は騙されていたんだ……。
そうと知らずに自分が彼の恋人同然の存在になったんだと浮かれて、俺はなんて滑稽だったんだ……。
彼の優しい眼差しや逞しい体のぬくもりを思い出して、俺の目に涙が浮かぶ。
ベッドの中で彼に抱かれたときのあの温かさと安堵感は幻だったんだ……。
冷たい夜風が、体に吹き付けた。寒さに背筋がぶるっと震える。
船旅から帰ったままの格好で家から飛び出してきたから、ジャケットは着ているがコートは着ていない。
それでも痛烈に身に染みるのは、寒さよりも寂しさだった……。
俺はずっと誰かに愛されたかった。
思えば子供の頃から俺は愛情に飢えていた。
はたから見れば俺は何一つ不自由なく育った金持ちの家のボンボンに見えただろう。
けれど両親はいつも俺を「宝条家の長男」という目でしか見ていなかった。
周りの人間もそうだ、俺を「宝条ホールディングスの御曹司」としか見ていないんだ。
だから俺は肩書のない丸裸の俺を愛されたいと願っていた。
ずっと昔から俺を好きだったと言った龍之介ならきっと生身の俺を愛してくれるんじゃないかと期待したんだ。
でもそれは俺の心を弄ぶためにからかって言ったことだったのだろう……。
俺の心はツキツキと痛んだ。
いつの間にか俺はネオンの輝く歓楽街を抜けて、街の外れの公園の前まで来ていた。
そこで足を止め、大きな木々が生い茂る暗い公園の中を見つめた。
確かここはハッテン場として有名な場所だったと思い出した。
公園の奥に古い公衆トイレがあって、そこの横のベンチに座って待っていると相手を探している男が声をかけてくる、とネットの掲示板で見たことがあった。
俺は薄暗い公園へ足を踏み入れた。
誰でもいいから今すぐ男に抱かれ龍之介のことも、この辛い現実も忘れたい。
そんな自暴自棄な衝動に駆られていた。
公園の中を進むと確かに掲示板の情報通り古くて汚いトイレがあった。壁には派手ないたずら書きがあった。
劣化してペンキの禿げたベンチに俺は腰を下ろした。
いつのものかわからないが、足元にはたばこの吸い殻が突き入れられているコーヒーの空き缶が置かれていた。
本当にここで待っていれば誰か来るのだろうか、と不安に思うほど周囲は暗く静かで、人の気配は全くしなかった。
誰も来てくれなくてもいい、少し寒いがここで時間をつぶせれば、家にいるよりはマシだ……。
きっと今頃、龍之介は家で俺の両親と共にエリカの妊娠を喜んでいるだろう。
そんな龍之介の姿を見るのが何より嫌だった。
母親はまた俺に早く結婚して子供を作れと言っていた。
もちろんそれは俺の幸せを願って言っているんじゃない、「宝条家」の今後を心配して言っているんだ。
俺だって、親の期待に応えられずずっと心を痛めているのに、そんなことはお構いなしだ……。
いつだってそうだ、プロになれる腕前だとまで言われていた大好きだったピアノだって、母親は簡単に俺にやめるように言ったのだ。
エリカには一度もヴァイオリンをやめろなんて言ったことがないのに……。
はあ、とため息をついて、俺はしばらくぼーっと星空を眺めていた。
「お兄さん……」
背後から声がして俺はビクッと全身を震わせた。
やっぱり龍之介はエリカを愛していたんだ……。
本当は俺だけを愛していると呟いた彼の言葉は全て嘘だったんだ……。俺は騙されていたんだ……。
そうと知らずに自分が彼の恋人同然の存在になったんだと浮かれて、俺はなんて滑稽だったんだ……。
彼の優しい眼差しや逞しい体のぬくもりを思い出して、俺の目に涙が浮かぶ。
ベッドの中で彼に抱かれたときのあの温かさと安堵感は幻だったんだ……。
冷たい夜風が、体に吹き付けた。寒さに背筋がぶるっと震える。
船旅から帰ったままの格好で家から飛び出してきたから、ジャケットは着ているがコートは着ていない。
それでも痛烈に身に染みるのは、寒さよりも寂しさだった……。
俺はずっと誰かに愛されたかった。
思えば子供の頃から俺は愛情に飢えていた。
はたから見れば俺は何一つ不自由なく育った金持ちの家のボンボンに見えただろう。
けれど両親はいつも俺を「宝条家の長男」という目でしか見ていなかった。
周りの人間もそうだ、俺を「宝条ホールディングスの御曹司」としか見ていないんだ。
だから俺は肩書のない丸裸の俺を愛されたいと願っていた。
ずっと昔から俺を好きだったと言った龍之介ならきっと生身の俺を愛してくれるんじゃないかと期待したんだ。
でもそれは俺の心を弄ぶためにからかって言ったことだったのだろう……。
俺の心はツキツキと痛んだ。
いつの間にか俺はネオンの輝く歓楽街を抜けて、街の外れの公園の前まで来ていた。
そこで足を止め、大きな木々が生い茂る暗い公園の中を見つめた。
確かここはハッテン場として有名な場所だったと思い出した。
公園の奥に古い公衆トイレがあって、そこの横のベンチに座って待っていると相手を探している男が声をかけてくる、とネットの掲示板で見たことがあった。
俺は薄暗い公園へ足を踏み入れた。
誰でもいいから今すぐ男に抱かれ龍之介のことも、この辛い現実も忘れたい。
そんな自暴自棄な衝動に駆られていた。
公園の中を進むと確かに掲示板の情報通り古くて汚いトイレがあった。壁には派手ないたずら書きがあった。
劣化してペンキの禿げたベンチに俺は腰を下ろした。
いつのものかわからないが、足元にはたばこの吸い殻が突き入れられているコーヒーの空き缶が置かれていた。
本当にここで待っていれば誰か来るのだろうか、と不安に思うほど周囲は暗く静かで、人の気配は全くしなかった。
誰も来てくれなくてもいい、少し寒いがここで時間をつぶせれば、家にいるよりはマシだ……。
きっと今頃、龍之介は家で俺の両親と共にエリカの妊娠を喜んでいるだろう。
そんな龍之介の姿を見るのが何より嫌だった。
母親はまた俺に早く結婚して子供を作れと言っていた。
もちろんそれは俺の幸せを願って言っているんじゃない、「宝条家」の今後を心配して言っているんだ。
俺だって、親の期待に応えられずずっと心を痛めているのに、そんなことはお構いなしだ……。
いつだってそうだ、プロになれる腕前だとまで言われていた大好きだったピアノだって、母親は簡単に俺にやめるように言ったのだ。
エリカには一度もヴァイオリンをやめろなんて言ったことがないのに……。
はあ、とため息をついて、俺はしばらくぼーっと星空を眺めていた。
「お兄さん……」
背後から声がして俺はビクッと全身を震わせた。
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