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第三章 淫らな船上パーティー (怜一郎side)

22.無秩序な船内※

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 何だろう、何かがおかしい世界だ。
 角を曲がった先に俺のことを探して歩く龍之介の姿を見つけ、俺は慌てて通路を戻った。

 どうしようかと少しの間そこで右往左往した後、目の前にあったカジノに逃げ込んだ。
 まだ営業時間前なのか店内の照明は薄暗く、ずらりと並んだスロットマシンも電気が点いていない。
 誰もいない店内はシーンとしているが、なにやら微かに物音と話し声が聞こえた。

 カジノの従業員に頼めば宿泊室の予約を担当する部署へ連絡してくれるかもしれないと期待して、俺はスロット台の並ぶゾーンを通って店の奥へ進んだ。
 スロットマシンの角を曲がる直前、
「ああっ!」
 となまめかしい叫び声が聞こえて、足を止めた。

 そっと声のした方を覗き見ると、うさぎ耳のカチューシャをつけたバニーガールの格好をした男が、テーブルへもたれたベストを着たカジノディーラーらしい男に抱きついて情熱的なキスをしていた。
 バニーの男は相手の唇を、んちゅっ、ちゅふっ、と夢中でむさぼりながら、ゆるゆると腰を揺らしている。
 よく見ると肩のないビスチェのようなバニー衣装の股の部分が不自然にずれ、ディーラーの男の性器がヌチ、ヌチと出し入れされている。
「はぁんっ……」
 体格のいい男二人の体重と律動に耐え兼ね、ゲーム用のテーブルはギシッ、ギシッ、と大きな悲鳴を上げている。

 この二人の目元も仮面に覆われているせいか、抱き合う二人からは幻想的な美しささえ感じた。
 完全に二人だけの世界に入っている彼らはこちらに気づきもせず、
「んっ、はぁっ……」
「ああっ……」
 と二人はキスの合間に甘い声を上げている。

 いくら開店前とはいえ、こんな場所で堂々とセックスするなんて……。しかも男同士で……。
 俺は逃げるように薄暗いカジノを出た。
 見てはいけないところを見てしまった、と思いながら俺はメイン通路の人混みの中に紛れた。

 人々の流れに従って歩いていくと、多くの人がステージの周りで足を止め、人だかりができていた。
 何の催し物を見ているのだろう、遠くからではミラーボールしか見えない。すぐ近くの売店で買ったワインやビールなどを片手にのんびりとショーを眺めている白人たちの間から俺はステージ上へ目を向けた。

 そこではボディラインが透けて見える薄い服を着た褐色の肌に金髪の青年が音楽に合わせて踊っていた。
 銀のポールを掴んで体の柔らかさを披露するような動きを繰り返し、焦らして、焦らして、薄い服を一枚、また一枚と脱いでいく。
 これは、ストリップショーか!? それも男のっ!?
 この船はやっぱりおかしい、と思いながらも俺は舞台の男から目が離せない。彼の放つすごい色気に圧倒された。
 彼が舞い踊る動きに合わせて、細い腕にいくつも重ねてつけられているアンクレットやブレスレットがジャラジャラと音を立て、キラキラと光っている。

 時間をかけて、とうとう彼は光沢を放つ小さな下着一枚になった。
 Tバックから丸見えの形のいい尻を見せつけて踊り、サイドの度の紐を下ろして局部を見せてしまおうかと紐に指をかけるがもったいぶって、またポールを掴んで踊る。
 後ろを向いたまま一気に下着を下ろすが、下着を上げてからこちらを向くというのを繰り返して、見るものの期待を煽る。
 俺はそれをどれぐらいの間、立ち尽くして見ていただろうか。

 突然背後からポンっと肩を叩かれて、俺はビクッと全身を震え上がらせた。
「義兄さん、逃げても無駄ですよ」
 振り返ると龍之介がいた。
 俺は逃げようとしたが、どうしてか足元がフラフラしてきて、うまく歩けない。
 なんだかまぶたが重く、体から力が抜けていき、立っているので精いっぱいだった。
「急に眠気が……。これから大事なパーティーだというのに……」
「ふふ、義兄さんはまだこの船でどこかの会社の創立記念パーティーが行われると信じているんですか?」
 床に倒れそうになった俺を龍之介がさっと支えた。

「な、なに……? どういうことだっ!?」
 まさか、俺の嫌な予感は的中したというのかっ!?
「この船は僕の知り合いのとある大富裕のゲイが、自分と仲間のゲイのために貸し切ったものなのです。船の中で普段地上では隠して生活している欲望を自由に解放するために」
 やっぱりおかしいと思ったんだ、と俺は下唇を噛んだ。
「……俺を騙したのかっ!?」
 こいつもエリカも俺に嘘をついたわけか。

「騙しただなんて人聞きが悪いなぁ、僕は義兄さんとこの船を楽しみたかっただけですよ。ここはゲイによるゲイのための理想世界なのですから。好きでしょう、憧れるでしょう、こういう世界」
 俺は内心ドキッとした。
「くっ……、好きなわけないし、憧れないっ……。こんな船今すぐ降りてやるっ!」
「降りる? 船はとっくに出航していますよ。船が港へ戻るまでの二泊三日の間、思い切り羽目を外して一緒にこの世界を堪能しましょう」
 龍之介の妖しい笑みを見ながら、俺の意識は遠のいていった。
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