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第三章 淫らな船上パーティー (怜一郎side)

20.私はお兄様の味方

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「それなら龍之介が一人で行けばいいだろう。俺には関係ない」
 俺は自室へ向かおうと階段の方へ歩き出した。

「ところでこの船上パーティーの件、お兄様はご存知でしたの? もしかして初耳なんじゃないかしら?」
「……そうだが、それがどうしたって言うんだよ?」
 廊下を歩く足を止めて、俺はエリカの方を向いた。

「やっぱり。船上パーティーにはお父様の古くからの大事な知り合いがたくさん来るみたいなの。そんな大事なパーティーを龍之介さんに行かせるなんて。……お父様ったら、ここのところ龍之介さんばかりを可愛がって、これじゃあお兄様が気の毒よね」
 思わず下唇を噛んだ俺に、エリカは声を潜めて言った。
「龍之介さんが宝条ホールディングスの代表として船上パーティーで名前を売ってしまったら、お兄様は今後完全に不利な状況になるわ。親しい知人に会社の跡取りを龍之介さんだと発表するようなものじゃない」
「なに……?」

「龍之介さんは確かに優秀な人だわ。だけど私は小さい頃からのお兄様の努力をそばで見てきたから、お兄様に会社の跡取りになってほしいのよ。だから、悪いことは言わないから、船上パーティーに行った方がいいわ。ちなみに船の部屋はシングルルームだから、龍之介さんと寝起きを共にせずにくつろいで過ごせるし」
「……もしかしてお前、明後日の夜に大事なコンサートがあるって、嘘なのか?」
 エリカは舌をペロッと出して、
「龍之介さんとお父様にはそう説明しておくわ。なんだかんだ私はお兄様の味方ですもの」
 と言って自室へ行ってしまった。

 しばらくして俺の部屋へ龍之介がやって来た。
「エリカさんから聞きました。明日の夜からの船上パーティーに一緒に行っていただけるんですね。僕の方で主催者側へ連絡しましたし、会社へ義兄さんの分の有給休暇の申請もしておきました。外国客船ですのでパスポートお忘れなく」
 とニコニコ嬉しそうに言った。

 翌日の昼には龍之介が呼んだタクシーで港へ向かった。
 客船ターミナルで乗船の準備を終えると、
「ちょっといいラウンジ、予約してありますよ」
 と龍之介に案内された。悔しいがこいつは本当に気が利く奴だ。
「ドリンク、アルコールも各種あるみたいですが、どうします?」
 上質なソファーへ腰を下ろした俺に龍之介が尋ねた。
「お前と同じでいい」

 バーカウンターへ行って、彼はスパークリングワインの入ったグラスを二つ持って戻ってきた。
「ところで今回のパーティーってどこの会社が主催なんだ? 創立記念パーティーなんだろう?」
 昨夜もなんだか龍之介は慌ただしく、パーティーのことをまだ詳しく聞けていないので、今のうちに聞いておこうと思ったのだが、
「ふふ、船に乗ればすぐにわかりますよ」
 と龍之介は笑うだけだった。

 まあ、いいか……、と俺は龍之介に渡された飲み物で渇いた喉を潤した。
「スパークリングワインなんて普段飲まないからよく知らないけどなんだか変わった味だな」
「そうですか? こんなもんだと思いますよ」
 そんなことを言いながら俺たちはグラスの中で泡の弾ける淡いピンクの酒を飲み干した。
「そうだ、僕はちょっと手続きがあるので、義兄さんはここで待っていてください」
 と龍之介はラウンジを出て行ってしまった。

 同じ船に乗る親父の知り合いがこのラウンジにも来るんじゃないかと周囲を見回していたが、見知った人は一人も見つけられなかった。
 見るからに裕福そうなアラブ人らしき若い男が両脇にそっくりな双子の美少女を連れてラウンジに入って来た。

 全く同じボブヘアーにミニスカートのワンピースを着た十五、六歳ぐらいに見える日本人らしき二人はアラブ人と一緒に俺の座る席の斜め向かいのソファーへ座るなり男に体を絡みつかせ、キスをねだっている。
 どう見ても親子じゃない。きっとパパ活なのだろう。
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