【本編完結】ゲイバレ御曹司 ~ハッテン場のゲイバーで鉢合わせちゃった義弟に脅されています~

衣草 薫

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第一章 初めてのハッテン場 (怜一郎side)

1.ゲイバー「マスカレード」

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 カウンターでバーテンダーがカクテルを作り、店の奥でタキシードを着た男たちがトランペットやドラムでゆったりとしたジャズの名曲を奏でている。
 薄暗いその店は一見どこにでもある雰囲気のいいバーに見えるが、店内にいるのは男ばかりで、客の全員が目元をベネチアンマスクで覆い素顔を隠している。

 ここは都内にあるゲイバー「マスカレード」。
 その名の通り仮面で素顔を隠して入店するのがここでのルールだ。
 入口の男に金を払った際にチケット代わりに渡された仮面をつけて、俺もこの店に足を踏み入れた。

 期待と不安にドキドキしながら、とりあえず隣に人のいないカウンターの一番端の席に腰掛けた。
「なんでもいい、おすすめのものをくれ」
「かしこまりました」
 バーテンダーに酒を頼んで店内を見回す。

 ソファー席に座った学生らしき二人組の男が、互いの耳元へ顔を近づけ何やら甘いムードで囁き合っている。
 もちろん彼らは友人同士なんかじゃない。
 生まれて初めて生で見る男同士のカップルのいちゃつく様子に俺の胸はトクンと高鳴った。

 俺はバーテンダーの出してきたレモンの添えられた濃い目のハイボールを飲み、ふぅと安堵のため息をついた。
 ここにいる男全てが俺と同じ同性愛者だと思うと、ほっとした気分になれる。それだけでも来てよかったと思えた。

「隣、よろしいですか?」
 背の高い男が声をかけてきた。
 目元を仮面で覆っているのでどんな顔をしているのかわからないが、マスクから出ている顔の下半分や服装を見ると上品で清潔感があり、年齢は俺と同じ二十代半ばぐらいだと思われた。
 胸板のがっちりとした男らしい体つきはなかなか自分好みだった。
さっそくよさそうな相手と知り合うことができて、俺は内心浮かれた。
「ええ、……どうぞ」

 男はバーテンダーに酒を頼み、
「ここへはよく来られるのですか?」
 と俺に尋ねた。
「いえ、初めて来ました。……ちょっと、むしゃくしゃすることがあったものですから」
 数日前、あまりにひどい出来事があり、俺はヤケを起こして勢いでここへ来たのだ。
 こういう店に来たのも初めてだし、自分以外のゲイの男と会話をするのも初めてだった。
 ごくごくとハイボールを飲み、俺は緊張で渇いた喉を潤した。

「僕も初めてです」
「え、そうなんですか?」
 堂々と話しかけてきたから、てっきりこういう場になれた人間なのかと思ったのだが……。
「こんなところへ来たことが周囲の者に知れたら大変なことになりますから……」
 と彼は形のいい口元でふふっと笑った。
 俺の心の中にある言葉を目の前の男が代わりに呟いたことに驚いた。
「えっ……?」
「僕はこう見えて、ちょっと特殊な家柄の生まれで、幼い頃から人一倍厳しく育てられていて……。だから親にこんな店へ出入りしたことがバレたらって考えるだけでも恐ろしいです」

 この男は俺とよく似た境遇で育ったようだった。確かに彼のスーツや腕時計は一般的なサラリーマンが少し背伸びをして身につけられる代物ではない。俺が今身につけているものと同じぐらい高価なブランドのアイテムだ。
 それに彼の表情や立ち振る舞いには、一朝一夕では身につくことのない育ちの良さがにじみ出ていた。

「へー、俺たち似たもの同士みたいですね」
 貴族の出である宝条家の長男として生まれた俺は、日本有数の大企業である宝条ホールディングスの跡取りとして親からの期待を一身に背負って生きてきた。

 この男も俺と同じなんだ。目の前の彼も今までゲイだということを隠して親の希望通り真面目に生きてきたんだ。それがわかると一気に親近感が湧くと同時に、信頼のような感情まで湧いてきた。
 こんな場所に来たら、顧みるものもなく毎晩遊び惚けているようなろくでもない連中に騙されてしまう心配をしていたのだが、この男となら大丈夫そうだ。
 俺は追加で注文した酒を煽った。
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