騎士と竜

ぎんげつ

文字の大きさ
上 下
11 / 17

10.変わらずに、王のものです

しおりを挟む
「やめた」
「は? クスティ様?」

 突然顔を上げた王を、マイリスはぽかんと見つめた。

「何をおやめになるんですか?」
「思い悩んでも仕方ないことなど放って先延ばしにする。俺は気が長いんだ」
「ええと、クスティ様……っひゃ」

 ぺろりと耳を舐められて、マイリスの肩が跳ね上がる。

「当面は、お前が俺の隣にいるなら良いことにする。明日は……そうだ」
「はい」
「お前が何も浮かばないと言うなら、父にお前を見せに行こう」
「おちちう……しゅ、守護竜殿ですか!?」
「ああ、そうだ。今はずっと森に引っ込んだままのはずだ。あそこには母上が眠っておられるからな」
「はあ……」

 目をまん丸に見開くマイリスをしっかり抱き込んで、王は翼でくるりと包み込む。

「お前を俺の宝だと見せびらかしてやるんだ。悔しがるぞ。何しろ、お前以上の宝なぞどこにもないからな」
「そ、そうですか?」

 いったい何をどう悔しがるというのか。
 マイリスにはさっぱりわからないが、王がいいなら、たぶんいいんだろう。
 ……たぶん。

 またかぷりと首を噛まれて、ぴくりとマイリスの背が動く。
 王の体温がやけに高いように感じる。
 ドキドキと心臓の鼓動がうるさくなる。

「あっ、あの、クスティ様も、お食事を……!」
「マイリスが食べたくなった」
「あ、あ、あの、でも、お腹が空いては……」
「食事より、マイリスがいい」
「でっ、では、では、湯浴みは……」
「お前も一緒に入れ」
「えっ、は、はい」

 王はマイリスを抱えたまま立ち上がった。腕と翼でしっかり抱え込んで、尾で床を軽く叩きながら軽い足取りで浴室へと向かう。
 浴室に立たされ、服を脱がされる段になってようやく我に返り、マイリスは慌てて王の上着を緩め始めた。

「クスティ様、その、これでは逆です。私がお世話をする立場なのに」
「いいじゃないか。なかなか楽しいぞ」
「けれど、それでは私が……」
「構わん。俺のやりたいようにさせろ」
「はあ……」

 嬉々としてマイリスを脱がせて、自分の服も脱ぎ捨てると、王はまた抱え上げて浴槽へざぶんと入る。
 待ち切れないように、ちゅうっと唇を吸って、抱き締めながらあちこちを弄って、「マイリス」と呼びながらだ。
 マイリスの心臓の鼓動がどんどん早くなって、顔に血が上る。
 王の目は甘く蕩け、まるで、マイリスがとても高価な宝石か何かであるかのように、うっとりと見入っている。
 ちゃぷ、と湯面が揺れた。マイリスをすっぽり包み込んだ翼が背を撫でる。
 第二の腕のように動く翼は、意外に繊細で器用なのだなと考えるマイリスの、触れられた場所がぴくぴくと反応してしまう。

「マイリス」
「んふ……クスティ、様」

 身体を清めようと入浴を勧めたはずだったのに、これでは何か違う。
 なのに、王に蕩かされて頭がうまく回らなくなってきた。
 翼が背を撫で、手が胸や腰を擽り……王がいきなり湯の中に潜った。

「く、クスティ様!」

 慌てるマイリスをよそに、肌の上をぬるりとした感触が滑り落ちていった。すぐに脚の間の敏感な肉芽に辿りついて、舌先が絡め取るようにやんわりと擽る。

「あ、あっ!」

 身体が大きく動くが、しっかりと捉えた王の翼と腕がマイリスを逃さない。
 舌は数度擽ったあと、秘裂の奥へとさらに潜り込んでいく。

「あ、あ、あ……っ」

 マイリスの手が王の背を擦る。
 水中を揺らぐ髪を掻き分け、突き出た角を撫で摩り、はくはくと喘ぐマイリスを、翼がしっかりと抱き込んだ。
 掌がさらりと胸を掠めて、指先がきゅっと頂を摘む。
 浅い場所を舌でやわやわと擽られて、どうにもたまらなくなってしまう。

「は、あぅ……あ、あっ」

 ぴくんぴくんと逃げるように小さく跳ねる腰が腕に抱え込まれてしまう。
 ふと目をやると、湯の中で王の尾がゆらゆらとそよぐように揺れていた。
 気持ちよくて溶け崩れつつある頭の中に、竜は水の中でも普通でいられるんだったな、などとどうでもいいことがぼんやりと浮かぶ。
 お湯にのぼせてしまったのか、身体の中から湧き上がる熱に呑まれてしまったのか、それとも王の熱に攫われてしまったのか、よくわからない。

 急にざばんと王が身体をもたげた。
 は、と息を吐いて、ぎゅうっと抱き締めて、「マイリス」と小さく呼ぶ。

「もう、我慢できない」

 熱く昂ったものが、マイリスに押し付けられた。王の身体がお湯よりも熱く感じられて、マイリスはゆっくりとひとつ頷く。
 耳を舐められて食まれて、「は」と声を漏らしてしまう。
 王の髪から雫がぽたぽたと滴り落ちる。
 頬を擦り寄せるようにしてから、王の唇が顔から首へと伝い降りて、やっぱりぱくりと軽く噛まれた。
 どう考えても、これは竜の習性としか思えないなと考えたところで、王の腰が動き出す。ぬぷりと中に沈み込み、ゆっくり、ゆっくりと埋められていく。

「ふっ……ん、んっ……クスティ、さま……っ」

 ん、と王の眉がわずかに顰められて、はあ、と息を吐く。

「俺の……俺の、マイリス。俺のだ……」

 は、は、と呼吸とともに、動きが次第に荒くなる。ぐいぐいと突き上げながら自分の名を呼ぶ王に、マイリスは自然と笑みこぼれてしまう。

「あ……っ、私、は」
「ん」
「クスティ、さまの、ものです……」
「ん、っ」

 背に回した腕で、しっかりと王にしがみ付く。脚を絡めて、腰を押し付けるようにして、「クスティさま」と呼ぶ。
 王の動きに合わせるように、湯面がざぶざぶと大きく揺れる。
 ばしゃ、と飛沫をあげて、尾が湯面を叩く。

「マイリス」
「は、い……ああっ」

 首を噛まれたり、耳を舐められたりしながら、王に奥深くを抉られて擦られて、マイリスの内襞が痙攣のように震え始めた。
 王の掌が顔を撫で、指先が唇に触れる。
 喘ぐマイリスの舌が、その指をぬるりと舐めた。鉤のように曲がった爪を舌先が辿り、誘い込むように絡め取る。
 口に差し込まれた指に舌を絡めながら、ふ、ふ、と息を漏らす。

「は、マイリス」
「ん、んぅ……んふ」

 熱に冒され、どろどろに蕩けた表情のマイリスが王を見上げる。
 ぞくぞくとする何かが背の中心を思い切り駆け上がって、王は小さく呻くと、また、マイリスの首筋を噛んだ。
 マイリスの中が大きく収縮した。搾り取ろうと思い切り締め付けるその奥の奥を穿とうと、思い切り腰を叩きつけた王が、熱を迸らせる。

「あ……あ、クスティ、さま」

 マイリスの口からぽろりと指が外れる。
 うっとりと喘ぐマイリスを、とてもきれいだと思う。

「マイリス……俺の、マイリス」

 ひくん、ひくんと小さく痙攣を繰り返すマイリスをしっかりと抱き締めたまま、王は唇を啄ばんだ。
 はあ、と吐息をもらすマイリスのあちこちにキスを降らせながら、「マイリス」と何度も呼ぶ。

「ずっとこのままでいたい」

 マイリスの中に留まったまま身体を抱き起こし、王が囁く。くったりと王に寄りかかったままのマイリスがまたわなないて、吐息を漏らす。

「のぼせて、しまいます」

 身体が揺れて、マイリスの内襞がひくひくと蠢き、王をやんわりと締め付けた。
 ん、と声を漏らして、王も小さく息を吐く。

「なら、湯から出て、のぼせないところに行こう」

 繋がったまま、王はおもむろに立ち上がる。
 身体の重みで奥を強く押され、びくりと震えて大きく跳ねる腰を、王の腕が強く押さえつけてしっかり支える。
 あ、あ、と声をあげて悶えるマイリスを抱えたまま、王が歩きだす。

「あ、あ、中……中、が」
「ん」

 全力でしがみ付くマイリスを嬉しそうに抱き締めて、王は機嫌よく寝室へと向かった。ぽたぽたと垂れていた水滴は、いつの間にか乾いていた。



「マイリス、マイリス」

 どろどろに蕩けたクリームのような、どこまでも甘い甘い王の声がマイリスの耳を擽り続ける。名前を呼んでいるだけなのに、マイリスが大切で堪らないという王の熱が伝わってくるようだ。
 とろりと蕩けた表情で、マイリスもキスを返す。

 王に望まれているからここにいるのか。
 それとも、自分がそう望むからこうして抱かれてもいいと思うのか。
 そのどちらでも構わないのではないだろうか。
 今はこうして王に名を呼ばれることを幸せだと感じるし、抱かれることだって嫌ではない。むしろ、好ましいとすら思えている。
 王に飽きられたら、たぶん、悲しいだろう。けれど、その時は潔くここを去る覚悟もできてはいる。

「マイリス、何を考えている」

 貫いて、ゆっくりと中を掻き混ぜながら、王がマイリスを覗き込んだ。

「クスティ様……」

 王の頬をするりと撫でて、マイリスが笑う。

「私の、自身の望みはわかりませんが」

 王の眉がわずかに寄る。
 なぜ、今そんなことを、と言わんばかりに目を眇める。

「クスティ様が私を厭わしいと思わない限り、私はクスティ様の側にいます。私は、クスティ様のものですから。
 それに、こうしたクスティ様を感じることも嫌ではなく、むしろ……」
「ん」

 王が、マイリスの首を噛む。
 何かを確かめているみたいだと、マイリスは思う。

「私の忠誠と愛は、クスティ様に捧げます。私はクスティ様のものです。
 この先、もしクスティ様が私を厭う時が来たとしても、変わらずに、私はクスティ様のものであり続けると誓います」
「――ん」

 王がぺろりと首を舐める。
 首を吸われて、ちり、と痛みが走る。

「なら、お前はずっと俺のそばで、俺のものだ」
「はい」

 力いっぱい、苦しいくらいに抱き締めて、王はマイリスにキスをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

いつの間にか結婚したことになってる

真木
恋愛
撫子はあの世行きの列車の中、それはもう麗しい御仁から脅迫めいた求婚を受けて断った。つもりだった。でもなんでか結婚したことになってる。あの世にある高級ホテルの「オーナーの奥方様」。待て、私は結婚していないぞ!というよりそもそも死んでない!そんなあきらめの悪いガッツある女子高生と彼女をまんまと手に入れた曲者オーナーのあの世ライフ。

悪役令嬢はオッサンフェチ。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
 侯爵令嬢であるクラリッサは、よく読んでいた小説で悪役令嬢であった前世を突然思い出す。  何故自分がクラリッサになったかどうかは今はどうでも良い。  ただ婚約者であるキース王子は、いわゆる細身の優男系美男子であり、万人受けするかも知れないが正直自分の好みではない。  ヒロイン的立場である伯爵令嬢アンナリリーが王子と結ばれるため、私がいじめて婚約破棄されるのは全く問題もないのだが、意地悪するのも気分が悪いし、家から追い出されるのは困るのだ。  だって私が好きなのは執事のヒューバートなのだから。  それならさっさと婚約破棄して貰おう、どうせ二人が結ばれるなら、揉め事もなく王子がバカを晒すこともなく、早い方が良いものね。私はヒューバートを落とすことに全力を尽くせるし。  ……というところから始まるラブコメです。  悪役令嬢といいつつも小説の設定だけで、計算高いですが悪さもしませんしざまあもありません。単にオッサン好きな令嬢が、防御力高めなマッチョ系執事を落とすためにあれこれ頑張るというシンプルなお話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...