上 下
37 / 152
岩小人の町

呆れた脳筋だ

しおりを挟む
 その、トゥーロ親方マイスター・トゥーロ、あなたの噂はかねがね耳にしている。それに、あなたの作ったものを手にしたことも。あなたの作るものは、本当に素晴らしいものばかりだ。
 だから、その――素晴らしい職人であるあなたにお会いできて、とても光栄だ!」

 ガチガチに固まり上擦り裏返った声でひと息に述べて、エルヴィラはぺこりとお辞儀をした。
 トゥーロの目が丸くなる。

「ミーケル、お前さん、面白いのを連れてるな」
「面白いかどうかはともかく、トゥーロ、ひとつ付け加えておくと、彼女はあの“猛将司祭”ブライアンの孫娘だよ」
「なんだって? なぜそれを先に言わん!」

 緊張のあまり顔まで強張らせながらのエルヴィラの言葉に、ミーケルが笑いながら付け足した。
 トゥーロは思わず頭にガンと響くほどの大声を上げて、どかどかとエルヴィラの前へと進み出る。

「お嬢さん、あんたがブライアンの孫娘ってのは本当かね? 顔をよく見せてくれんか」
「あ、ああ。戦神教会のブライアン・カーリス司祭なら、確かに私の祖父だが……まさか、親方マイスターは祖父を知っているのか?」

 じろじろと、まるで出来上がった武具を確かめるように、トゥーロは上から下までエルヴィラを眺めまわす。

「ふむ……その目元といい、真っ青な色といい、確かにやつに似ておるな。あれはよい戦士であった。司祭にしておくには惜しいほどにな。
 ふむふむ、そうか、ブライアンの孫娘か」

 ひとり納得したのか、トゥーロは噛みしめるように頷く。エルヴィラは戸惑うばかりだ。かのトゥーロ親方マイスター・トゥーロが祖父の知己だなんて、聞いたことがなかった。

「あ、あの……親方」
「で、ここへは何を求めに来た? お前も戦うものなんだろう」
「え、え? まさか、作っていただけるのですか!?」

 おう、と鷹揚に頷くトゥーロに、エルヴィラはうれしさあまって今にも倒れてしまいそうだった。
 おたおたと財布を取り出して、手近なテーブルの上にざらっと全部をぶちまける。金貨と、未だ換金してなかった宝飾品の全部をだ。

「わ、私の手持ちはこれで全部なんだ。だから、これで作れる剣と、できれば鎧を……」
「ふむ……どれ」

 トゥーロは山になったエルヴィラの全財産を確認すると「十分だ」と笑った。

「さっそく採寸しないといかんな。今つけてる防具は、それで全部か?」
「旅の間は、この上に胴鎧と、脚にも腿当てを。あとは兜だ」
「ふむ。剣はそれか。少し見せてみろ」

 エルヴィラは腰から剣を抜き、トゥーロに渡す。

「この傷は?」
「それは、ハーピィとやりあった時に、そいつの爪で……」

 それまで黙っていたミーケルが、くすりと笑った。

「“ローレライ”だよ、トゥーロ。ただのハーピィじゃなくて、“ローレライ”とひとりでやりあって、勝ったんだ」
「何?」
「ひ、ひとりじゃなかったぞ。お前だっていたじゃないか」
「僕は熱があったから、歌ってるだけだったよ。しかも、“ローレライ”の“魅了の歌”を無効化するだけで手一杯だった」
「それでも、お前の歌がなきゃ、私だって支配されるところだった」
「なるほど、あの“ローレライ”か」

 しみじみと剣を眺めて、トゥーロはにやりと笑う。

「さすがブライアンの孫娘か。こりゃ、しっかり作らんといかんてことだな」
「えっ?」
「よし、エルヴィラ、こっちにおいで。お前さんにちょうどいい重さを測ろうか」

 それから、トゥーロに引き回されるようにして身体中を採寸され、重たい小石を詰めた袋をいくつも担いで力の強さを測られ……。
 さらには模擬戦までやって、身体の使い方の癖までを確認された。

 それは、フルオーダーの武具をあつらえる時には必ずやるような、とても本格的な計量だった。トゥーロの出来合いの武具を手に入れられればと考えていたエルヴィラは、それだけで期待してしまう。

「そうだな、出来上がるまでひと月はかかるだろう。途中で何度か再採寸も必要になる。その間、お前さんはこの町に留まっておいてくれ」
「わかった」
「あとは、お前さんの紋を入れることになるが」
「私の、紋」

 いよいよ自分も、自身の紋を入れた武具を手にできるのか。紋入りの武具なんて、まさに一人前の騎士であることの証明ではないか。
 エルヴィラはごくりと喉を鳴らす。

「紋を入れるのは最後の最後のだからな、それまでに決めておいてくれよ」
「あ、ああ、わかった」



 トゥーロの工房を出てからずっと、エルヴィラは夢の中をふわふわと歩いているようだ。まだ信じられない。あのトゥーロに武具を鍛えて貰えるなんて。

「よかったじゃないか。
 あんなに乗り気なトゥーロなんて滅多に見ないよ。きっといいものを作ってくれるんじゃない?」
「すごいな。夢みたいだ」
「トゥーロは職人気質だからね。どんなに金貨を積んでも気に入らない相手には絶対作らない。だから、君はトゥーロに気に入られたってことだよ」
「そうなのかな。どうして気に入ってもらえたんだろう」

 不思議そうに首を傾げるエルヴィラに、ミーケルはくすりと笑う。

「そりゃ、君が“猛将司祭”の孫娘に違わない騎士だってわかったからだろうね」
「え?」
「普通の騎士や戦士は、魔法の助けもないのにひとりで“ローレライ”に向かってくなんてことしないんだよ。おまけにそれで勝つなんてね」
「だって、ミケが来たじゃないか」
「僕が来るなんて思ってなかっただろう? それに、子供もすぐどうにかなるわけじゃなかったのに」
「え、あ……うん、たしかに、そうだった、かも?」

 今気がついたように、エルヴィラはぽかんとミーケルを見上げた。

「呆れた。まさかそんなことも考えてなかった?」
「子供を助けなきゃってばっかり考えてたし……それにミケが間に合ってくれたじゃないか。結局問題はなかったからいいんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

中でトントンってして、ビューってしても、赤ちゃんはできません!

いちのにか
恋愛
はいもちろん嘘です。「ってことは、チューしちゃったら赤ちゃんできちゃうよねっ?」っていう、……つまりとても頭悪いお話です。 含み有りの嘘つき従者に溺愛される、騙され貴族令嬢モノになります。 ♡多用、言葉責め有り、効果音付きの濃いめです。従者君、軽薄です。 ★ハッピーエイプリルフール★ 他サイトのエイプリルフール企画に投稿した作品です。期間終了したため、こちらに掲載します。 以下のキーワードをご確認の上、ご自愛ください。 ◆近況ボードの同作品の投稿報告記事に蛇補足を追加しました。作品設定の記載(短め)のみですが、もしよろしければ٩( ᐛ )و

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

処理中です...