真夜中の吸血鬼

ぎんげつ

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5.吸血鬼と私

6.エロいことしかしてない

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 ミカちゃんの火傷が治ってホッとしたところで、遅い夕食にする。
 サーモンや野菜を乗せたオープンサンドをもそもそと頬張り始めると、ミカちゃんがちらりと部屋の扉を振り返った。

「律子さんは、もう無闇に扉を開けないでくださいね」
「うん……でも、ミカちゃんかなと思ったから」

 ミカちゃんは仕方ないですねと小さく息を吐く。

「私は自分で開けるか、必ず声を掛けますから」

 そう笑って、それから、ふと何かを思いついたという顔になる。

「――律子さんは、伝説や民話などで吸血鬼がどういうものだと言われているか、ご存知ですか?」
「ええと……人間の生き血を吸う怪物で、血を吸われた人間は死んで吸血鬼に変わっちゃう。それで、ニンニクと十字架に弱くて、太陽の光に当たったり心臓を杭で刺されたりしないと死なないの。
 でも、ミカちゃんはこれ全部あてはまってるわけじゃないよね」

 ミカちゃんはにっこりと頷いた。

「伝説というものは、誇張されたり捻じ曲げられたり、あるいは他のものと混ざったりして伝わりますから、もちろん全てが正しいわけではありません」
「うん」

 だから、ミカちゃんは少しなら太陽の光を直接浴びても平気だし、ミカちゃんに血を吸われても私は吸血鬼にならなかったし、一緒にニンニクたっぷりの餃子を食べても平気だったのだ。伝説通りじゃないから。

「吸血鬼は基本的に不老であり、何かに滅ぼされるまで死ぬことはない、稀有な魔物でもあります」

 私はパチパチと瞬きをする。

「じゃ、ほっとくとずーっと生きてるの? でも、人外って皆そうなんじゃないの? カレヴィさんとかは?」
「あれは人狼族で、彼らには通常の人間並の寿命しかありませんよ」
「そういうものなんだ」
「はい」

 人外って皆歳をとらないんだと思ってた……けど、考えてみたら、ナイアラは種族で寿命が違うとか言ってたような?
 帰ったら聞いてみようかな。

「私たちについての伝説で正しいのは……そうですね。私たちを滅ぼせるものが聖なる力と古い魔法だけだということと、私たちが“招き入れられなければ入ることができない”ことあたりでしょうか」
「聖なる力って、あの、天使が使う変な力のこと?」
「はい。他にも、昔はよく研鑽を積んだ敬虔な聖職者にもそういう力が振るえる者はいましたが、今は数を減らしています。なので、それほど心配はありません。古い魔法も科学の発展のお陰で使えるものはほぼいなくなりました」

 たしかに、オカルトとか魔法とかって最近は流行らなくなったもんな。神社も儲からない人手が足りないで、無人のとこも増えてるって言うし、教会も似たようなものなのかもしれない。

「でも、招き入れられないとっていうのは?」
「文字通りですよ。初めておとなう屋敷や他人の部屋には、そこの住人の許可がないと入ることができないんです」
「え? でもそれじゃ、ミカちゃんは最初、うちにどうやって入ったの?」
「もちろん、律子さんに招いていただきましたよ」
「へ?」

 私、ミカちゃんご招待したっけ?
 気が付いたらもう入ってたと思うんだけど。

「この部屋は私と律子さんにあてがわれた部屋ですから、私か律子さんの許可がなければ、彼らは入って来られません。
 無闇に扉を開けさえしなければ、心配はありませんよ」
「あ、えと、それはわかったけど……あのさ、私、ミカちゃんのことをうちにご招待って、いつしたっけ?」
「今更ですか? もちろん、最初に会った時ですよ。お忘れですか?」

 にっこり笑ってミカちゃんがキスをする。
 何かごまかされてるような気がする。

「最初って、気付いたらもう中にいなかったっけ?」
「ちゃんと律子さんのお招きを受けて部屋に入りました」

 そのお招きの記憶がないんだけどな。
 じっとりと眺める私を抱き寄せて、ミカちゃんがまたキスをする。

「律子さんはかわいいですね」
「んもう、そうやってごまかそうとしてる」
「何もごまかしてなどいませんよ」

 にこにこしながらキス魔になるミカちゃんに、もう、仕方ないから今回はごまかされてやろうと思った。



 中途半端な時間に寝て、夜はちゃんと寝られるのだろうかと心配したけれど、なんだかんだで疲れが取れていなかったらしい。いや、もしかしたら、これは時差ボケなのかもしれない。また昼近くまでぐっすりと寝倒してしまった。

「ん……ミカちゃんおはよ……」

 半分目を瞑ってもぞもぞしていたら、ミカちゃんにきゅっと抱き寄せられた。少しひんやりしたミカちゃんの身体が、背中にぺたりと押し付けられる。

「おはようございます、律子さん。よく眠れましたか?」
「ん……」

 朝からそんな風に囁かれたら、ものすごく耳の毒だ。

「ミカちゃんは朝からお色気魔人だね」
「そうですか? ではお色気魔人らしく、律子さんに迫ってみましょうか」
「えっ、ちょっ、ミカちゃん!?」

 ぺろっと耳を舐められて、パクリと齧られる。
 いくらなんでも毎日朝からこれは爛れすぎて……と思ったけれど、考えてみたら、いつものミカちゃんだった。

「みっ、ミカちゃんてさ!」
「はい?」

 はむはむくちゅくちゅと耳を食べながら、ミカちゃんがにっこり微笑む。

「ミカちゃんて、基本的にエッチ好きだよね!」
「好きですよ。律子さんもお好きなくせに、今更ですか」
「だっ、だって、何かっていうと、すぐエロいこと始めるし」
「律子さんがかわいいからです」

 つい赤くなった顔を、ミカちゃんがさらに追い討ちをかけるようにかわいいかわいいと囁きながら舐め回す。

「えっ、いや、それ、たぶん、違……あ、あ、そだ、吸血鬼が、魅了得意っていうのと、関係あるの?」

 ミカちゃんがいやらしく身体を撫で回す手付きがそろそろやばい。これはもう、最後までやらないと満足しないぞという時の手付きだ。

「そんなに気になりますか?」
「う、んっ、ちょっと、気になる、から」

 くすりと笑って、ミカちゃんがうなじを啄む。歯を立てずに噛んで、ぺろんと舐めて……ざわざわと肌が粟立って、ぞくぞくする感覚が湧き上がる。

「魅了とは、少し違いますよ」
「あ、あっ、そう、なの?」
「ええ。ただ、食欲と性欲が繋がっていることは間違いないでしょうね。いつも、律子さんを食べたいと思いながら抱いていますから」
「あっ」

 胸の先を摘まれて、思わず背を反らしてしまう。ミカちゃんのもう片手がするんと滑って、指先でぬかるんだところをゆるりと撫でる。

「じゃあ……あっ」

 じんじんと疼き始めたところをぬるぬると擦って、ぐいと押しつぶす。

「ええ、こうしている間にも、どんどん律子さんが欲しくなるんです。食べたいのか繋がりたいのか、わからなくなりそうなくらいに」

 耳元で、ミカちゃんが、は、と吐息を漏らした。ミカちゃんはひんやりなはずなのに、その吐息はとても熱く感じる。
 くちゅくちゅ中を掻き混ぜながら首にキスをするミカちゃんは、本当はやっぱり血が飲みたくて仕方ないんだろう。

「ん……っ、食べて、繋がって、いいんだよ」
「けれど、律子さんを損ないたくありません」

 囁きながら、何度も何度も首にキスをするミカちゃんに、私はつい笑ってしまう。カレヴィさんや天使の扱いはぞんざいでも、私のことはいつも、壊れ物か何かのように甘やかしてばかりなのだ。

「大丈夫、だよ。これでも、貧血検査で引っかかったことないし。毎日、鉄分たっぷりの、プルーンヨーグルトも飲むから」
「それでも、ですよ」

 膝を割って、ミカちゃんがゆっくり入ってくる。押し広げて擦られる感覚で背すじがぞわぞわして、「あ」と声を上げてしまう。

「ああ、あ、ミカ、ちゃん」

 ぎゅっとしがみ付いてぱくぱく金魚みたいに息をする私を、真っ赤になったミカちゃんの目が覗き込む。
 最高級のルビーは鳩の血の色だと何かで読んだ。それ以上に鮮やかに赤いミカちゃんの目は、ルビーよりもっと貴重な宝石なんじゃないだろうか。
 キスをして、舌先に当たったミカちゃんの牙をぬるりと辿る。
 本当はこんなに長くて鋭いのに、いつもはあまり目立たないミカちゃんの牙。どうやって隠しているんだろう。

「律子さんは、かわいいですね」
「ん、ああっ」

 蕩けるように甘い声でミカちゃんが囁く。
 ここのところずっと、そればっかりだ。十人並みの日本人顔なのに、なんでそんなに至福という表情と声音で言えるんだろう。彫りの深い白人種から、平坦な日本人顔は愛嬌があるように見えるというアレだろうか。そこに好き補正も加わってのコレだろうか。
 私の頭の中と同じくらい、ミカちゃんの表情が蕩けていく。
 今ここでしか見られない、ミカちゃんの蕩け顔だ。きっと、あの天使に見せたら驚くに間違いない。

「律子さん、何を考えているんですか?」

 ぐっ、ぐっ、と奥を押されて、気持ち良さに腰が震えてしまう。

「あ、何にも、あ、考えてな……ああっ」
「何か変なことを考えているという顔をしてました」

 ぺろんぺろんと喉を舐められて、ぐちゅぐちゅ派手に掻き回されて擦られて、どんどん高みに上ってしまう。
 こうやって気持ちよくなることが食べることに直結してるなら、ミカちゃんがこうもエッチが上手なのは納得だ。私だって、魚が好きで食べまくってたから中骨剥がすのが上手になったんだから。

「変なことなんて、考えてない、よ」
「じゃあ、何を?」
「ん……」

 なんとなく目を逸らしてしまう。ミカちゃんのエロスキルと私の魚解体スキルを同列に並べてたと言ったら、怒られそうだ。

「律子さん?」
「あ、あっあっ、や、そこ……っ!」

 くるりと器用に身体の向きを返された……と思ったとたん、ドン、と強く突き上げられた。さらにぐりぐり奥を抉られて、喉を反らしてしまう。剥き出しになった喉を、ミカちゃんがくすくす笑いながら食む。

「律子さんは、もっと私に集中してください」
「うっ、ん、集中、する……するから、もっと……」
「はい」

 ちゅっとキスをして、覆い被さったミカちゃんが、猛然と動き出す。
 胸や乳首を弄られたり、耳や首を齧られたりしながら思い切り中を突き上げられて、瞬く間に頭の中が気持ちいいでいっぱいになってしまう。

「あっあっ、ミカちゃ、ミカちゃんっ!」
「っ、律子さんは、かわいい、ですね」

 ひくひく痙攣を始める私をぎゅーっと抱き締めて、ミカちゃんはめちゃくちゃにキスをする。頭の中が気持ち良さとチカチカする光でいっぱいになって、でもそれが弾け飛ぶまで行かなくて、私は脚を絡めていつものようにおねだりをする。

「あっ、きて、ミカちゃん、お願い……あ、あっ」

 ずぶりと首を噛まれて、脳天まで痺れて突き抜けるような快感が背骨を駆け上がって、びくんと身体が跳ねた。しがみついたミカちゃんの身体がぶるりと震えて、私の奥でどくどくと脈打った。

 ふと考えてみると、私、こんなヨーロッパくんだりまで来ておいて、ミカちゃんとエロいことしかしてないんじゃないだろうか。
 こんなんでいいんだろうか。

 牙を抜いてぺろりと舐めたミカちゃんは、それからしっかり私を抱き締め直して、また何度も何度もキスをする。
 イった後のぼんやりふわふわした頭でミカちゃんを見上げて、私は「ミカちゃん大好き」と囁いた。

「律子さん、愛してます」
「ん」

 抱え込まれて囁かれて、幸せで脳味噌が溶けてしまいそう。

「――実は、律子さんを私の同族に迎える方法があると言ったら、律子さんはどうしますか?」
「ふぇ?」

 どうぞく? と頭にはてなマークをぐるぐる浮かべながら顔を上げると、ミカちゃんはとっても真剣な顔で私を見つめていた。
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