つがいではありませんが

ぎんげつ

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【閑話】デートといきましょうか/後篇

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「最初から二本とも入れるのは難しいんですよね」

 服を脱ぎ捨てた朱灯は、ぶつぶつと不満げに呟きながら、勃ち上がったジィアを一本ずつ握ってみる。
 本当なら最初からきちんと二本納めて、確実に種を取りこぼさないようにしたいのに、さすがに慣らさないと粘膜が切れてしまうのだ。

「――監査官、なんて格好してるんですか」
「朱灯ですよ」

 縛った腕を押さえ込んだままごそごそとジィアのジィアを弄る朱灯は、ガーターベルトと太腿までのストッキングだけを身に付けていた。
 いい加減にしてくれとでも言いたげな顔で、ジィアがじっとりと眺めている。

「ファッション雑誌というのを読んでみたんです。“彼氏を悩殺するためのAtoZ”という特集だったんですよ。なかなかに有意義な内容でした」
「だから、わざわざそんな格好なんですか」
「どうですか、ジィア。ムラムラしますよね? だって、こんなに元気でヤル気に満ちていますし」

 にっこりと笑って、朱灯はジィアの二本を代わる代わる撫で擦る。その度にじわりじわりと快感が湧き上がって、ジィアは歯を食い縛る。

 たしかに、地上人の女が朱灯のような格好をすればジィアだって目のやり場に困ったのだろう。しかし、いかんせん朱灯だ。その手による物理的な刺激で欲情はするが、見た目で欲情はいささか難しかった。
 もっとも、そんなことを口にして、朱灯をわざわざ燃え立たせる気はないが。

「監査官がそう思っているなら、それでいいです」
「朱灯です。なんだか嫌な言い方をしますね。私ではなくジィアがムラムラすることが重要なんです」
「してもしなくても、結局監査官はこうやって押し倒すんじゃないですか」
「朱灯です。それはもちろん、私はジィアにムラムラしますし」

 するんだ、などとジィアが考えてる間にも、朱灯は今日はこちらからと決めた一本をあてがい、腰を落としていく。
 見た目が見た目なのに、中は程よい狭さで気持ちいい。
 く、と小さく声を漏らすジィアに、朱灯はうれしそうに目を細める。

「ん……早く、最初から、二本とも入れられるように、したいです」
「なんで、そんなに拘るんですか……っ」
「だって、ジィアのですから」

 擦りあわせるように、朱灯の腰が円を描いた。きゅ、と絞るような締め付けが、少し物足りないくらいの快楽をジィアに送り込む。

「とても気持ち良くて、ずっと入れておきたいくらいなんです。二本とも入れると、ジィアを全部呑み込めた喜びでおかしくなりそうなほど感じてしまって」

 はあ、と熱のこもった吐息とともに、朱灯は腰を動かし続ける。

「――ジィアは気持ち良くありませんか?」
「それは……」

 どこかとろりと蕩けたような顔で、朱灯がジィアを見下ろしている。
 勃ち上がった朱灯の痕跡器官がジィアの外に残されたもう一本に触れるたび、ジィアをしっかり咥え込んだ朱灯の内部がぴくりとわななく。
 あ、と小さく声を漏らして、朱灯が明確に、自分の痕跡器官とジィアの外の一本を擦り合わせ始めた。

「く、監査官」
「朱灯と、呼んでください」

 粘液がぐちゅぐちゅと音を立てている。

「ジィアは、いつも私のことを、朱灯と呼んでくれません」
「それは……」
「どうして、あなたはそんなに、つれないんですか」

 腰を動かしながら、朱灯はジィアの上に倒れ込んだ。
 朱灯の中に入ったものと、朱灯と自分の身体に挟まれたものと、両方からゆるゆると物足りない強さの刺激は続いている。

「あ、あなたこそ……別に、俺じゃなくたって……」
「そんなわけないでしょう。ジィアでなくては嫌だから、こうしてるんですよ」

 あむ、と首を齧りながら朱灯が囁いた。
 そのままぬるりと舌が這い、ジィアの耳朶を擽る。耳から神経が直結したかのように、股間の熱が誘発される。
 一本が外に出たままでは物足りないという衝動が膨れ上がる。

「あ――く、っ」
「ジィア?」

 不意にビッと引き裂く音がした。
 急に自由になったジィアの片腕が朱灯を抱える。裂けたシャツは右腕に引っかけたまま、いささか乱暴に身体を起こす。

「あ、何を」
「あなたは黙っててください」

 腰を持ち上げ、中に収めていたものを抜かれて慌てる朱灯をキスで黙らせて、ジィアは自分のものを二本とも掴み、すぐに朱灯の中へとねじ込んでしまった。
 少々雑で乱暴に過ぎる扱いだというのに、柔軟な朱灯の襞は二本とも貪欲に呑み込んでしまう。

「あ、ジィア……っ」
「あなたのやり方じゃ、いつまで経ってもイけないんですよ」
「もっと、激しく、ということですか……ああっ」
「あなただって、あんなんじゃ満足できないくせに」
「そんなこと、っ、ありませ……あ、ジィアっ!」

 これ以上ないほど押し広げられ、強く抉るように奥を突かれた朱灯は、ぎゅうと抱き着いて嬌声を上げる。
 地上分室の執務室では、朱灯がどんなに頼んでもここまで激しく抱いてくれない。やはり、専用の施設を利用してよかった。

「あ、ジィア……ジィア……」
「っく」

 それに、朱灯の性分化もようやく完全に終わったらしい。ジィアに掻き回されて、常になく強烈な「欲しい」という感情が頭の中を染め上げていく。

「ジィア、ください。お願いします。私に、あなたの種を……あ、ジィア、ジィア……」
「そんなに、欲しいんですか」
「欲しいんです。あなたの、ジィアの種で、私を満たしてください」

 絶対に逃がさないという意思表示なのか、しっかりと脚を絡めて朱灯は強請る。
 無言で何度も何度も腰を叩きつけるジィアの顎から、汗がぽとりと滴り落ちた。顔を真っ赤に紅潮させた朱灯も、欲と期待に満ちた目でジィアを見ている。

「あなたは、っく」
「ジィア……っ」
「種なんて、もう一年は余裕なくらい溜め込んだとか、言ってませんでしたか」
「そんなの、ジィアの種ならいくらでも欲しいんです」
「――俺じゃなくても、本当は相性が良ければ誰でもいいんじゃないですか?」

 内臓が持ち上げられたように感じるほど、大きく中を掻き回される。
 ふたつとも呑み込んだ膣壁はこれ以上ないくらい押し広げられているのに、痛みも苦しさもまったく感じない。むしろ、もっとして欲しいと思ってしまう。

「ジィアが欲しいんです。誰でもなんてこと、ありません。だって……私を大人にしたのも女にしたのも、ジィアなんですから」
「――っ!」
「あ、っ、ジィアが、私の、初めての男、なんですよ」

 たまらず、ジィアは何度も何度も腰を叩きつけて朱灯の内を抉る。悦びの声を上げる朱灯も、絡めた脚でひたすらジィアに腰を押し付ける。

「だから、私を、ジィアでいっぱいにして、ジィアで染めあげて……」
「あなたって、龍人ひとは」
「朱灯と――朱灯と呼んで」

 ぎりっと歯を食いしばるジィアの自身が、固さと体積を増した気がした。「あ」と小さく声を漏らして、朱灯はぱくぱくと口を喘がせる。

「――朱灯」

 抱え込んでぴったり身体を合わせて、尖った朱灯の耳元に口を寄せて、ジィアが小さく囁いた。
 ヒュッと息を吸い込んだ朱灯の身体がびくびくと大きく痙攣する。

「あ、っ……いきな……うっ」

 思い切り締め付けて痙攣する朱灯の内襞に、ジィアもたまらず爆ぜてしまった。上に倒れ込んでしまわないよう、ぜいぜいと息を荒げながらついた腕で身体を支えている。
 朱灯は、惚けたように口を半開きにしたまま虚空を見つめ、激しく息を吐いていた。どこか信じられないような表情でぼんやり巡らせた視線を、ジィアの顔の上で止める。

「ジィア、もう一回、してください」
「なんでですか」
「とても、したいので」
「査察はどうするんですか」
「今日は、地上のラブホテルの査察ですから、大丈夫です」
「そんな査察がありますか」

 引こうとしたジィアの腰を、朱灯の脚が引き留めた。その拍子に朱灯の中の締め付けが増して、ジィアはつい吐息を漏らしてしまう。

「ねえジィア、いいでしょう? ジィアのペニスも、固くなってきましたよ」
「あなたは、すぐそういうデリカシーのないことを言う」
「朱灯と」

 思い切り眉間に皺を寄せるジィアに、朱灯はとろりと微笑んでみせた。

「もう一度、朱灯と、私の名を呼んでください」
「あなたは……」

 ジィアは朱灯の唇を塞ぐ。
 これ以上、気を削がれるようなことを言われてはたまらない。
 さっきよりずっと滑らかに潤った朱灯の中で、ジィアは抽送を始めた。まださっきの余韻が残っているのか、内襞は行き来するジィアに絡みつくように蠢いている。

「は……あっ、ジィア……」

 唇がほんの少しだけ離れてしまう。
 朱灯はもっととせがむように腕を巻き付けた。その身体を抱えて上体を起こし、対面に座ったジィアは朱灯の腰を引き寄せる。
 朱灯はジィアの肩に顔を伏せて身体を預け……

「奥の、奥まで、ジィアを感じます」

 ぞくぞくと背を上る快感に身を震わせながら、吐息を漏らした。

「――朱灯」
「……っあ!」

 伏せた頭のすぐ側で囁かれて、びくんと跳ね上がるように朱灯は背を反らす。
 ろくに動いてないというのに、朱灯の中は締め付けて震えている。

「あなたは、名前を呼ばれただけで感じるんですか」

 ゆっくりと掻き混ぜながら、ジィアが呆れた顔で朱灯を見る。
 目元を真っ赤に染めて、いつもは細長い瞳孔もまん丸に開き切って、どれほど興奮しているというのか。

「だって、ジィアはいつも私の名を呼んでくれないから」
「だからって」
「もっと、呼んでください――あっ」

 ジィアが無言で突き上げた。
 自重と下からの突き上げで、わけがわからないほど奥が気持ちいい。
 こんなに強く奥を突かれているのに、やっぱ痛みも苦しさも感じることはない。ただひたすらに気持ちいいだけだ。

「あ、あ、ジィア、ジィア」

 汗で滑る身体に必死でしがみついて、朱灯は強請る。さっき達したばかりの身体は、もうすぐにでも頂上に登りつめてしまいそうなほどの収縮を繰り返す。

「お願いです、ジィア」
「っく……」
「ねえ、ジィア、呼んでください」

 朱灯の長い紅毛がジィアの身体に張り付く。まるで、髪の先まで使ってジィアを絡め取ろうとしているようだ。
 ジィアは、思わずまた朱灯を押し倒してしまう。

「ジィア……?」
「朱灯、いきたいんでしょう? いっていいですよ」
「――あ、っ」

 ぎゅう、と朱灯はこれ以上なく締め上げて痙攣する。
 いったいどれだけ呼ばれたくてしかたないのか――本能の遺伝子マッチングがどうのという割に、朱灯は本気でジィアを好きだとでもいうのか。
 少しだけ呆れながら奥深くをめがけて、ジィアはまた放った。
 数度震えて弛緩してもなおジィアにしがみついたまま、朱灯はにまにまと笑いだす。この上なく幸せだ、という顔で。

「ジィア、鑑査室に戻ったら、サインしますよね?」
「何の、話ですか」

 相変わらず離れない朱灯の手足を外そうと悪戦苦闘しながら、ジィアは眉を顰めた。諦めが悪いなと思いながら。
 朱灯は離れまいと、ますますしっかりとジィアにしがみつく。

「婚姻届です。サインする気になったでしょう? 一ヶ月後には卵も産まれますし、そろそろサインしても良い頃合いだと思いますよ」
「しませんよ」

 え、と大きく目を見開く朱灯は、「なんでですか!」と声を上げる。

「どうしてもこうしても、あなたと結婚する気はありませんと、ずっと言ってるじゃないですか。仕方ないので、産まれた子の認知くらいはしますけど」
「こうしてラブホテルにも一緒に入ったのですし、私の名前も呼んだのだから、結婚くらいいいじゃないですか。
 どうせ同居もするんです。ついでにちょっと届けにサインするだけで、ジィアに迷惑はかかりませんよ」
「なんですかそれ。だいたい、同居とか了承した覚えなんてありませんよ!」

 むう、と顔を顰めた朱灯は、やっぱりジィアに張り付いたまま離れようとしない。ついでに、ジィアのジィアも中に収めたままだ。

「わかりました。このままジィアを抱き潰して、快楽堕ちしたところでサインを迫ることにします。
 それに、もう明日から同居は決まっているんです。観念してください」
「はあ? 何言ってるんですか、監査官」
「朱灯です。今日、新居への荷物の移動を手配しておきましたし、官舎の引き払い手続きも済んでますから大丈夫ですよ。
 新しいベッドもこのシリーズにしましょう。やわやわのたぷたぷで、寝るにもセックスにもいい感じですし」
「はあああああ?」

 慌てて朱灯を放り出そうとするが、もちろん朱灯は離れない。べったりとしがみついたまま、ジィアに頬擦りをしている。

「ね、ジィア。今度は私の後ろも使ってできるようにしましょうか。いつも二本とも一緒に入れるだけでは変化に乏しいですし」
「そんな変化いりません!」
「そうですか? 夫婦仲睦まじく過ごすには、性生活の充実も必要だとモノの本に書いてありましたよ」
「まだ夫婦じゃな……あっ」

 今度は朱灯がジィアを押し倒す。

 結局ラブホテルの利用時間は延長され、地上分室には査察からの直帰連絡をするはめになったのだった。
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