行け、悪役令嬢ちゃん!

ぎんげつ

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11-3.どうしてこうなった

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 膝をつき、何故か騎士の礼を取るミシェルが、至極まじめな表情でロズリーヌへと請うように告げる。

「どうか、あなたの侍女であるジレット嬢への求婚を許してほしい」
「――へ?」

 なんで?
 求婚?
 しかもジレットに?

 ロズリーヌはぱちぱちと数度まばたきを繰り返し、足元のミシェルを見下ろした。
 それからぐるりと視線を巡らせて、いつもの抑えたデザインのドレスとは違う、とても貴族令嬢らしい華やかなドレスに身を包んだジレットにも気が付いた。
 ジレットは祈るように手を合わせ、ひたすらに成り行きを見守っている。

 そのジレットと目の前のミシェルを交互に見やって、ロズリーヌはようやく口を開く。
 この男は、どさくさに紛れて何を言いだしているのか。
 おまけに、ちゃっかりとジレットに自分の目の色のドレスを贈って着せているとか、どういうことなのか。

「――お前、本気なの?」
「ロズリーヌ?」

 ロズリーヌの手の震えは止まっていた。
 涙も引っ込み、声の調子もいつものような張りのある強いものに戻っていた。
 どこかぼんやりとしたようすも、きれいに消えていた。
 王太子は、このショック療法が上手くいったのかとうれしくなって、ロズリーヌの腰をそっと引き寄せる。

「俺は本気です。どうか、モンティリエ嬢、あなたの侍女ジレットへの求婚の許しをください!」

 ミシェルは真摯に訴える。
 ようやく、まともに話ができるチャンスが来たのだ。
 これを逃したら、次はいつまともに話ができるのかわからない。

「――ほほ」

 ロズリーヌが笑い出した。
 最近は見せることがあまりなかった、ロズリーヌらしい笑顔だ。

「おかしくてよ、ミシェル・クレスト。わたくしのかわいいジレットを、くれと言われてほいほいくれてやるとでもお思いだったのかしら?」
「お、お嬢様!」

 ジレットが、いつものお嬢様だと喜びの声を上げる。

「モンティリエ嬢、しかし、俺はジレット嬢のためなら何だって……」
「何だってできると、そうおっしゃいますの? ふふ……口だけでおっしゃるのはとてもたやすいことよ」
「ですが、俺は本当に本気なのです」
「ならば!」
「――ロズリーヌ!?」

 ロズリーヌは自分の長手袋をさっと外すと、ミシェルに投げつけた。
 まさかここまでと、王太子が驚きに目を瞠る。

「ジレットが欲しくば、わたくしの屍を超えてお見せ!」
「も、モンティリエ嬢!?」
「嫌だと言うなら、お前の本気もそこまでだったということね!」
「いえ、俺は本気です!」
「ならば明日の夕刻、学園の運動場でお前を待ちましょう。見事わたくしを倒し、お前の本気と力を示すがいいわ!」

 おほほほほほ、と高笑いするロズリーヌに、ジレットが駆け寄る。

「お嬢様、それでこそお嬢様です!」
「まあジレット。もちろん、このわたくしがミシェル・クレストに負けるような無様など見せることはなくてよ」
「はい、もちろんですお嬢様!」

 ジレット嬢、君はどちらの味方なんだ――というミシェルの呟きは、誰の耳にも届かなかった。

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