行け、悪役令嬢ちゃん!

ぎんげつ

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4-3.悪役令嬢ちゃん、決意表明する

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「その、モンティリエ嬢。あなたにひとつ、お願いがあるんです」
「――わかりました」
「え?」

 ロズリーヌが即座に答えると、ミシェルは驚きに目を瞠る。

 だが、ロズリーヌにしてみればミシェルの願いなんて明らかである。
 王太子だ。
 だからロズリーヌに手を引けと、つまりそういうことなのか。

「モンティリエ嬢、わかったって……」
「ええ、わたくしは知っているの。お前の願いなどすぐに察せられるわ」

 今度はミシェルがぽかんと呆気に取られた後、たちまち赤面した。
 まさか、自分の態度はバレバレだったのか。
 ロズリーヌにこうもたやすく察せられるくらいなら、ジレットにも自分の下心は見透かされていたのではないか。
 けれど、それなら話は早い。

「それでは、モンティリエ嬢」
「けれど!」

 ぴしゃりと返されて、ミシェルはまたもや口を噤む。
 ロズリーヌはジレットを大切にしている。
 だから、あまり好意的に捉えていないミシェルは、ジレットに相応しくないと言いたいのだろうか。
 そこをどうにか考え直してもらわなければ……。

「わたくしが、そうほいほいと許すとでも思っていらっしゃるの?」
「ですが、俺は本気で……」
「お前になど、絶対に渡すものですか!」

 間髪いれずに返されて、ミシェルは愕然としてしまう。それほどまでに嫌われていたのか、と。
 なら、何故親しげなそぶりなど見せたのか。
 こうして谷底へ確実に叩き落とすためだったのか。

「残念ね。この天地がひっくり返ろうとも、そんな日は来ないわ。このわたくしが、必ずや阻止してみせるのだもの」
「それほどまで、俺が気に入らないと……」
「当たり前ではなくて? お前、自分を何だと思っているの。お前は男なのよ」
「え? あの、それはもちろんそうですが」

 何故男ではだめなのか。
 まさかジレットは男嫌いというやつなのか。それとも同性愛嗜好がある?

 ミシェルは必死に考える。どこかに突破口はないものかと。けれど、次にロズリーヌが口にしたのは、ミシェルが考えもしなかった言葉だった。

「ミシェル・クレスト――お前に殿下の貞操など渡さないわ。たとえ刺し違えてでも、わたくしが、お前の毒牙から殿下を守り通して見せましょう」
「――へ?」

 今、何かとんでもない言い掛かりを聞いたような気がする。
 ミシェルの思考が追いつかない。

 そこに、バンと大きな音を立てて扉が開いた。
 数日前、各人の立場を変えて見た光景だ。

「ロズリーヌ! 何をしている!」
「で、殿下……!」

 ロズリーヌがさっと顔色を変えた。

 まさか、これはあのイベントか。
 悪役令嬢がヒロインを呼び出してねちねちといびり倒しているところに王太子が踏み込んでくる、あのイベント。
 たしか“ゲーム”ではこれが決定打となって、王太子が本格的にロズリーヌの行状を疑うようになるのだ。
 呼び出したのがヒロインだからと、その可能性を考えていなかった。

 ロズリーヌは、キッとミシェルを睨みつける。

「やられたわ……まったくもって油断したわ。お前がその気なら、わたくしも受けて立ちましょう!」
「待ってくれモンティリエ嬢、いったい何の話だ」

 ミシェルの言葉には耳を貸さず、ロズリーヌは王太子を振り返る。

「殿下!」
「ロズリーヌ?」
「わたくしは潔白ですわ! けれど、わたくし自身がそう申し上げても、きっと殿下は聞いてくださらないのでしょう」
「ロズリーヌ、何故そんなことを……」
「しかしわたくしは絶対に認められません。認めるべきではないからです。ですから、殿下には、御身の貴い御身分をくれぐれもお忘れなきよう」

 ロズリーヌは立ち上がった。淑女らしく腰を落とした優雅な一礼をすると、背すじをすっと伸ばして堂々と部屋を出る。
 ミシェルも王太子も、ロズリーヌの気迫に呑まれたまま声も出ない。



 ロズリーヌが立ち去ってしばらく後、ようやく言葉を口にしたのは、ミシェルが先だった。

「シルヴェストル王太子殿下」
「なんだ、ミシェル・クレスト」
「俺は、いつ、殿下の貞操など狙いましたっけ?」
「――は?」

 王太子は、反射的に壁を背にしてミシェルから飛び退いた。

「お前、お前はまさか男色なのか?」
「それこそまさかです!」

 男ふたりは、なんとも言えない表情で顔を見合わせる。
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