神託の乙女になりました

ぎんげつ

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七日目 ー3

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 後ろに控えていた従者の声は、あの吟遊詩人だという悪魔混じりの声と同じだった。
 彼が令嬢の呼びかけに頷き、扉の外を伺ってから何かの合図をすると、「こうなるんじゃないかって思ってたわ」と、虚空からイリヴァーラの声がした。

「しょぼくれて凹んでるところを見に来たよ」

 それから従者アートゥは扉を背にしたまま、僕ににやにやと笑みを向ける。

「お前、まさか」
「お嬢も僕も、ルカちゃんどうにかされると少し困るんだよね」
「悪魔王を召喚するのはわたくしこそですのに、カルトなどという下賤の者に先を越されるのは我慢ならないの。アートゥから聞いたわ。お前、そのルカとかいう娘を助けてカルトを潰すのでしょう?
 こんなところで腐ってる暇があったら、さっさと仕事をなさい」

 その令嬢は尊大に言ってのけると、僕には興味を失ったように後ろへと下がる。
 同時にイリヴァーラが姿を現し、「お嬢様、ご協力に深く感謝いたします」と最敬礼をした。

「カイル、それで腹はくくれた?」
「腹をくくる?」
「そうよ。あなたはここから出るんでしょう?
 その意味がわからないとは言わないわよね?」

 僕はごくりと唾を飲み込む。
 破門、という言葉が心を過るが、僕は決して神に背くわけではない。教会が必ずしも正しいというわけではないのだと、自らに言い聞かせるように考える。
 神託によってこの身に課せられた使命のために、何より自分とルカのために、すべきことをするために、ここを出るのだ。
 保身のためにこのままここに留まりルカを失えば、逆にその時こそ、僕は自分を許すことができず、堕ちるだろう。

「問題ない。剣もここにある。このまま行こう」

 立ち上がる僕にイリヴァーラは優しく、姉か母にでもなったかのように微笑んで指輪をひとつ差し出した。

「大丈夫よ。うまく行けば、教会のあなたへの処分だってどうとでもできるわ。これから、それだけの働きをするんだから。
 ――さ、これを付けて。ナイアラの透明の指輪を借りてきたの。ここには幻を置いていくわ」

 イリヴァーラが手早く呪文を唱えると、部屋のベッドの上には僕が座って項垂れているような幻が現れた。

「長時間ごまかすのは無理だから、さっさと都を出るわよ。いいわね?」
「ああ、そうそう。ジャスパーから伝言を預かってるんだよ。はい、これ」

 人間の姿を取った“悪魔混じり”の詩人は、くつくつと笑いながら何か封書を差し出した。

「あとね、アレ、連れ込んでるなら、北のほうが怪しいから。
 今日になって急に慌ただしく移動してるんだよね。北のはここから少し遠いから、行くなら急いだほうがいい」

 では、準備はできたのかしら? という令嬢の声に僕とイリヴァーラが姿を消すと、令嬢は再び衛兵を呼ぶ。
 そのまま令嬢と共に扉を抜け、僕らは教会から脱出した。



 外はもう夕暮れの時間だった。閉門までまだ少し余裕はあるが、教会の手が回ってからでは遅いと、さっさと外へ出る。
 荷物は、既にナイアラたちが運び出していた。

「ヘスカンの“託宣”で、あの詩人に力を借りろと出たの。驚いたわ、彼の主人て、十大貴族メイヤーの一家なんだもの」

 どうりで、たやすくあの地下の反省坊まで面会に来られたわけだ。

「でも助かったわ。教会には移動の魔術を阻害する結界があるから、どうやってあなたを連れ出そうかと悩んでいたのよ」
「いちおう、必要そうなものは揃えておいたよお? カイルの鎧も、そっちの袋に入ってるのお。剣取り上げられてたらどうしようかなって思ったけど、持ってるみたいでよかったあ」

 ナイアラも安堵の笑みを浮かべていた。

「心配させてすまなかった。
 剣は……僕にしか触れないから、単に取り上げたくてもできなかっただけだろうな」
「どっちにしても良かったよお。剣無しのカイルだと、強さ半分になっちゃうもん。これから危ないとこいくのに、半分じゃ役に立たなくなっちゃうよお」
「少し酷くないか?」

 ナイアラはにいっと笑って、「ヘタレの上に半分じゃ、ルカちゃん泣いちゃうしねえ」とすたすた歩き出した。

「準備ができたなら、出発しましょうか。教会も気になりますが、少しでも距離は稼いでおきたい」
「そうね。変人魔術師の書簡も見たけど、やっぱり怪しいのは北ね。“託宣”の結果も“神々との接触”の結果もそう出ていたし、間違いないと思うわ」

 北――都の北に位置する丘陵地帯の、“魔女の舞踏場”と呼ばれる場所を目指して、僕らは歩き始めた。
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