14 / 33
五日目 ー1
しおりを挟む
翌日、朝起きるとなんだか頭が重くて、ぼうっとしているような気がした。寝過ぎてしまったのだろうか。
「どうしたのお?」
頭をぐるぐる回していたら、起き出したナイアラが不思議そうに尋ねる。
「すっきりしなくって。変な姿勢で寝ちゃったのかな? 肩が凝ってる気もするし」
「ふうん? 肩揉んであげようかあ?」
猫の肩揉み! という誘惑に抗えなかった私は、少しだけお願いすることにした。
結論、ナイアラは肩揉みがうまい。
今日は、私とイリヴァーラのふたりで、ジャスパーという魔術師の住まいを訪ねることになっている。どうしても心配だというカイルは外で待つからと、やっぱり付いてくるのだそうだ。
それでは、まるで、本当に犬みたいなんじゃないだろうか。
歩く間は、都についてから常にそうしているように手を繋いだままで、いつの間にか、この状態にも慣れてしまったなと思う。
「ここね」
教えて貰ったジャスパーの住まいは、商業区の西側の、主に住宅が並ぶ区画の北の外れにある塔だった。ここへ来るときに見た城壁より高い塔だ。たぶん、普通の建物の2、3階層分くらいは高いのではないだろうか。
「じゃあ、カイル。ここでおとなしく待っていてね」
カイルがどうにも離し難いような面持ちで手を離し、「気をつけて」と頭にぽんと手を乗せる。
ただでさえカイルの背は私の頭ひとつ分以上高いのに、そんなことをされては年齢が逆転したかのように感じてしまう。
「行ってくるね」
それだけを言い残して、私はイリヴァーラの後に続いた。
まるで待たれていたかのように……いや、実際待っていたのだろう。門が開き、塔の扉が開き……自動ドアのように次々と入り口の扉が開き、まるで誘い込まれるように私たちは塔の中へと入る。
塔の中でも、私たちはまるで案内されるかのように、ぽつぽつと順番に灯る明かりにしたがって進む。
途中には、人間よりも大きい、変わった甲冑のような鉄の像がいくつか置かれていた。
「ゴーレムかしらね? それにしては、初めて見る形だけど」
イリヴァーラが小さく呟きながら、しげしげと見つめながら進む。
たぶん、外壁に沿って作られているんだろう階段を、ひたすら案内に従ってぐるぐると昇りきると、ようやく扉が見えた。
結構な高さを昇り切って、切れ切れになった息を深呼吸で整えてから、ノックをしようと拳を上げた途端……また扉が開く。
「どうぞ、待ってたよ」
中から柔らかい男性の声が響いた。
待っていたのは、輝く金の髪に星をはめ込んだような銀の目の、ものすごくきれいな男性だった。男性に“きれい”はおかしいかもしれないが、きれいとしか形容しようがないのだ。
神々しさではカイルに一歩譲るかも知れないけれど、顔面偏差値はいい勝負ではないだろうか。
彼が立ち上がると、呆気に取られる私をよそにイリヴァーラが一歩進み、妖精らしい優雅なお辞儀をする。
「ジャスパー殿、今日はお会いいただくことができて、光栄です」
「私のほうこそ、善き黒妖精の魔術師イリヴァーラ・エダーグレンに会えるとは光栄だ」
ふたりとも、にっこりと微笑んで握手まで交わしているのに……なんだろう、言葉に表しにくいこの雰囲気は。
緊張のあまり手に汗をかきながら伺ってしまう。
彼はふっと笑って「お茶を出すから、そこに座って」と私たちに長椅子を勧め、魔法でお茶の準備をする。
種族補正なのか見た目補正なのか。
ひらひらと指をひらめかし、いったいどうやってなのかさっぱりわからない方法でカップに茶を注ぎ、私とイリヴァーラの前にカップを置く。
その手つきまでもがとても優雅で綺麗で、私はつい見惚れながら自分との差を考えてしまう。
見た目がいいだけで、こうも違うなんて。
私はしみじみと考えながら、ふうふうと息を吹きかけてお茶を一口ごくりと飲んだ。
「お茶、どう? 口に合ったかな?」
なぜかにこにこと微笑んで、彼は私が茶を飲む様子をじっと見ている。
「え、ええと、おいしい、です」
もう一口飲んでそう答えると、彼はますます笑みを深めていた。お茶を飲んだだけなのに、なぜそんなにじっと見ているのだろうか。
「それは良かった。ちなみに、今日出したお茶はね――」
彼がそう述べるのと同時に、なぜか動悸が激しくなる。
おまけに顔も熱くなってきて、いったい何が起きているのかと混乱する。
慌てて彼を見るとさらに顔が熱くなって……首まで真っ赤になっていることが自分にもわかるくらい熱くて、ますます混乱する一方だ。
「え、なに? どうして?」
「私が特別に調合したもので、惚れ薬にも使われる薬草が入っている」
「えっ、ええええ?」
「躊躇なく飲んでくれて嬉しいよ」
「ほっ、惚れ薬!?」
くつくつと楽しそうに笑うジャスパーと、まさかこれは彼に惚れてしまったせいなのかと慌てる私に、イリヴァーラが溜息を吐いた。
「どうしたのお?」
頭をぐるぐる回していたら、起き出したナイアラが不思議そうに尋ねる。
「すっきりしなくって。変な姿勢で寝ちゃったのかな? 肩が凝ってる気もするし」
「ふうん? 肩揉んであげようかあ?」
猫の肩揉み! という誘惑に抗えなかった私は、少しだけお願いすることにした。
結論、ナイアラは肩揉みがうまい。
今日は、私とイリヴァーラのふたりで、ジャスパーという魔術師の住まいを訪ねることになっている。どうしても心配だというカイルは外で待つからと、やっぱり付いてくるのだそうだ。
それでは、まるで、本当に犬みたいなんじゃないだろうか。
歩く間は、都についてから常にそうしているように手を繋いだままで、いつの間にか、この状態にも慣れてしまったなと思う。
「ここね」
教えて貰ったジャスパーの住まいは、商業区の西側の、主に住宅が並ぶ区画の北の外れにある塔だった。ここへ来るときに見た城壁より高い塔だ。たぶん、普通の建物の2、3階層分くらいは高いのではないだろうか。
「じゃあ、カイル。ここでおとなしく待っていてね」
カイルがどうにも離し難いような面持ちで手を離し、「気をつけて」と頭にぽんと手を乗せる。
ただでさえカイルの背は私の頭ひとつ分以上高いのに、そんなことをされては年齢が逆転したかのように感じてしまう。
「行ってくるね」
それだけを言い残して、私はイリヴァーラの後に続いた。
まるで待たれていたかのように……いや、実際待っていたのだろう。門が開き、塔の扉が開き……自動ドアのように次々と入り口の扉が開き、まるで誘い込まれるように私たちは塔の中へと入る。
塔の中でも、私たちはまるで案内されるかのように、ぽつぽつと順番に灯る明かりにしたがって進む。
途中には、人間よりも大きい、変わった甲冑のような鉄の像がいくつか置かれていた。
「ゴーレムかしらね? それにしては、初めて見る形だけど」
イリヴァーラが小さく呟きながら、しげしげと見つめながら進む。
たぶん、外壁に沿って作られているんだろう階段を、ひたすら案内に従ってぐるぐると昇りきると、ようやく扉が見えた。
結構な高さを昇り切って、切れ切れになった息を深呼吸で整えてから、ノックをしようと拳を上げた途端……また扉が開く。
「どうぞ、待ってたよ」
中から柔らかい男性の声が響いた。
待っていたのは、輝く金の髪に星をはめ込んだような銀の目の、ものすごくきれいな男性だった。男性に“きれい”はおかしいかもしれないが、きれいとしか形容しようがないのだ。
神々しさではカイルに一歩譲るかも知れないけれど、顔面偏差値はいい勝負ではないだろうか。
彼が立ち上がると、呆気に取られる私をよそにイリヴァーラが一歩進み、妖精らしい優雅なお辞儀をする。
「ジャスパー殿、今日はお会いいただくことができて、光栄です」
「私のほうこそ、善き黒妖精の魔術師イリヴァーラ・エダーグレンに会えるとは光栄だ」
ふたりとも、にっこりと微笑んで握手まで交わしているのに……なんだろう、言葉に表しにくいこの雰囲気は。
緊張のあまり手に汗をかきながら伺ってしまう。
彼はふっと笑って「お茶を出すから、そこに座って」と私たちに長椅子を勧め、魔法でお茶の準備をする。
種族補正なのか見た目補正なのか。
ひらひらと指をひらめかし、いったいどうやってなのかさっぱりわからない方法でカップに茶を注ぎ、私とイリヴァーラの前にカップを置く。
その手つきまでもがとても優雅で綺麗で、私はつい見惚れながら自分との差を考えてしまう。
見た目がいいだけで、こうも違うなんて。
私はしみじみと考えながら、ふうふうと息を吹きかけてお茶を一口ごくりと飲んだ。
「お茶、どう? 口に合ったかな?」
なぜかにこにこと微笑んで、彼は私が茶を飲む様子をじっと見ている。
「え、ええと、おいしい、です」
もう一口飲んでそう答えると、彼はますます笑みを深めていた。お茶を飲んだだけなのに、なぜそんなにじっと見ているのだろうか。
「それは良かった。ちなみに、今日出したお茶はね――」
彼がそう述べるのと同時に、なぜか動悸が激しくなる。
おまけに顔も熱くなってきて、いったい何が起きているのかと混乱する。
慌てて彼を見るとさらに顔が熱くなって……首まで真っ赤になっていることが自分にもわかるくらい熱くて、ますます混乱する一方だ。
「え、なに? どうして?」
「私が特別に調合したもので、惚れ薬にも使われる薬草が入っている」
「えっ、ええええ?」
「躊躇なく飲んでくれて嬉しいよ」
「ほっ、惚れ薬!?」
くつくつと楽しそうに笑うジャスパーと、まさかこれは彼に惚れてしまったせいなのかと慌てる私に、イリヴァーラが溜息を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる