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第三章 再会とフラクタル
27.
しおりを挟む 混乱していたスタッフは、目立つ包帯をあらかたはずして服装を整えた雅文に、疑いをかけるようなことはなかった。病院内の造りをすでに把握していた雅文は、松葉杖を持った不自由な身ながら何の問題もなく敷地を離れた。大通りへと抜け出すと、雅文はちょうど通ったタクシーに駅へ行くよう依頼した。
新幹線を待つ間、雅文は駅の公衆電話から咲良のスマホに連絡した。しかしどうやら拒否されているようで一向につながる気配はない。飲んでいた薬が切れたのか、全身に響く痛みとともに雅文はいらだちを覚えた。周囲の人間が手に持つスマホを奪って電話をかけたくなり、杖の持ち手を握りしめる。
新幹線の席に座って車窓に映る自分を見つめる。顔に残ったはれは引かず、特に右側にあざが残っている。人が少ない時間ではあるが周りの視線が気になった。
自分が病院から消えた話はすぐ大叔父にも届くだろうし、行先も見当がつくはずだ。思ったよりも順調に考えた計画が進んでいたが、周囲に不審に思われて引きとめられるのは避けたかった。
終着駅の見慣れたホームから目当ての路線へと急ぐ。方向音痴な自分のことを承知していた雅文は、こうなる以前にスマホで路線図や駅の乗り継ぎを予習していた。いざという時に問題なく目的の住所にたどり着けるよう、あらかじめややこしい道のりを頭に叩き込んでいたものの、こんなところで役に立つとは自身でも思っていなかった。
もれた苦笑に頬を歪めて慣れない松葉杖と進む。心配顔をした駅員に一度だけ声をかけられたが、目的の駅への道のりが間違っていないことだけ確認し、後は問題ないと告げた。
──咲良。今、行くから。
身を焼くような痛みを連れて思いこがれる彼女を目指す。まぶたの裏の彼女が笑った。
最終電車に何とか間に合い、雅文は座席に背中を預けた。痛みとあせりで燃えた体はにじんだ汗にまみれていた。深呼吸をくり返し、気持ちを落ち着けようとする。意外と多かった周囲の客は、人ひとり分の場所を広げて怪しい自分から離れようとしていた。
新幹線を待つ間、雅文は駅の公衆電話から咲良のスマホに連絡した。しかしどうやら拒否されているようで一向につながる気配はない。飲んでいた薬が切れたのか、全身に響く痛みとともに雅文はいらだちを覚えた。周囲の人間が手に持つスマホを奪って電話をかけたくなり、杖の持ち手を握りしめる。
新幹線の席に座って車窓に映る自分を見つめる。顔に残ったはれは引かず、特に右側にあざが残っている。人が少ない時間ではあるが周りの視線が気になった。
自分が病院から消えた話はすぐ大叔父にも届くだろうし、行先も見当がつくはずだ。思ったよりも順調に考えた計画が進んでいたが、周囲に不審に思われて引きとめられるのは避けたかった。
終着駅の見慣れたホームから目当ての路線へと急ぐ。方向音痴な自分のことを承知していた雅文は、こうなる以前にスマホで路線図や駅の乗り継ぎを予習していた。いざという時に問題なく目的の住所にたどり着けるよう、あらかじめややこしい道のりを頭に叩き込んでいたものの、こんなところで役に立つとは自身でも思っていなかった。
もれた苦笑に頬を歪めて慣れない松葉杖と進む。心配顔をした駅員に一度だけ声をかけられたが、目的の駅への道のりが間違っていないことだけ確認し、後は問題ないと告げた。
──咲良。今、行くから。
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