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エピローグ
もう妖精にはなれません
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彼の匂いがする枕を抱いて、みのりは深々とため息をついた。
──家と学校を往復してたあの清純な頃にもどりたい。
すでにかなわぬ思いを胸に、横にいる広い背中をながめる。
今日も今日とて学校帰りに彼氏の家に連れ込まれ、やることをやって落ち着いたばかりだ。かわらず広い雄基の部屋に替えの私服まで置かされて、第二の自室になってしまった。
今まで通りにお稽古はもちろん二人でしているし、時々学力が上の彼氏に勉強を教えてもらったりもするが、それ以外にしていることは相も変わらず新婚さんだ。彼とつきあうことを単純に考えていたあの時は、まさかこんなにアダルトな関係になるとは思わなかった。
「あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど」
第一ラウンドの始末を終えて、人なつっこい大型犬よろしく体をよせて来る彼に、幾分距離を置きながら続ける。
「緑陽の……あの、雄基君に連絡を取ってくれたお友達、もう彼女っているのかな?」
最近口もきいてくれない音々の表情を思い出し、あらためて雄基に聞いてみる。可能性は低いだろうが、とりあえず彼女の意向にそって少しは動くべきだろう。
みのりを抱きよせかけていた雄基は、眉間に深いしわを刻んだ。何だか不機嫌な顔をしている。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「学校の友達から、ちょっと紹介してって言われて──」
口元を曲げた彼氏の顔に首をかしげながら言う。雄基はますます不機嫌そうになった。
「……あいつにはもう彼女がいる」
──まあ、そうですよね。
案の定の雄基の答えにみのりは肩をすくませた。気を取り直して言葉を続ける。
「あ、じゃあ、他の友達でもいいから。彼女が欲しい人とかっていない?」
「いやだ」
きっぱりとした雄基の返事に、みのりはぱちくりとまばたきした。
「え、何が? お友達に彼女作って欲しくないの?」
わけのわからない彼氏の答えに思わず首をかたむける。
実は、雄基はそういう趣味もひそかにかかえていたんだろうか。話に聞くと男子校ではそういうこともあるっていうし、だとしたらストライクゾーンが広すぎる。
雄基は渋い顔で答えた。
「そうじゃなくて……そういうのって、友達だけで会わせるわけじゃないんだろ」
「ああ、まあ、そうだね。最初は多分一緒につきあって、遊びに行ったりするのかな?」
首をひねって告げたみのりに、雄基はむすっとして言った。
「だから。──他の男にお前を会わせるのがいやだ」
みのりはぽかんと口を開けた。
「え? だって、私が友達を紹介してもらうわけじゃないんだよ?」
「それでもいやだ。絶対に。……行ってる学校が女子高だからとりあえず安心してたんだ。なのに、なんでほかの男にお前を会わせなきゃいけないんだ」
みのりの腰を抱きよせて、憤然とした口ぶりになる。
心のせまい彼氏の言葉にみのりは思わず絶句した。言われた意味がよくわからない。『そんな人だとは思わなかった』とまではさすがに言わないが、彼の新たな一面に次の言葉が出なくなる。
──もしかして、雄基君って独占欲強い……束縛系? 執着系?
もしかしなくてもそうだろう。数年越しの恋をこじらせ、強引に成就させたくらいだ。
かたまりかけた思考の中で持っていた枕を取り上げられる。雄基は再びみのりの体をベッドに押し倒しながら言った。
「悪いけど、いやなものはいやだ。そう友達に伝えてくれ。……そんな話はもういいから、みのり、もう一回これにさわって」
最後は甘くささやかれ、みのりは小さくため息をついた。
──ごめん、音々。
怒った友達の顔を思う。心の底から謝りながらみのりは彼の要求に答えた。
──家と学校を往復してたあの清純な頃にもどりたい。
すでにかなわぬ思いを胸に、横にいる広い背中をながめる。
今日も今日とて学校帰りに彼氏の家に連れ込まれ、やることをやって落ち着いたばかりだ。かわらず広い雄基の部屋に替えの私服まで置かされて、第二の自室になってしまった。
今まで通りにお稽古はもちろん二人でしているし、時々学力が上の彼氏に勉強を教えてもらったりもするが、それ以外にしていることは相も変わらず新婚さんだ。彼とつきあうことを単純に考えていたあの時は、まさかこんなにアダルトな関係になるとは思わなかった。
「あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど」
第一ラウンドの始末を終えて、人なつっこい大型犬よろしく体をよせて来る彼に、幾分距離を置きながら続ける。
「緑陽の……あの、雄基君に連絡を取ってくれたお友達、もう彼女っているのかな?」
最近口もきいてくれない音々の表情を思い出し、あらためて雄基に聞いてみる。可能性は低いだろうが、とりあえず彼女の意向にそって少しは動くべきだろう。
みのりを抱きよせかけていた雄基は、眉間に深いしわを刻んだ。何だか不機嫌な顔をしている。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「学校の友達から、ちょっと紹介してって言われて──」
口元を曲げた彼氏の顔に首をかしげながら言う。雄基はますます不機嫌そうになった。
「……あいつにはもう彼女がいる」
──まあ、そうですよね。
案の定の雄基の答えにみのりは肩をすくませた。気を取り直して言葉を続ける。
「あ、じゃあ、他の友達でもいいから。彼女が欲しい人とかっていない?」
「いやだ」
きっぱりとした雄基の返事に、みのりはぱちくりとまばたきした。
「え、何が? お友達に彼女作って欲しくないの?」
わけのわからない彼氏の答えに思わず首をかたむける。
実は、雄基はそういう趣味もひそかにかかえていたんだろうか。話に聞くと男子校ではそういうこともあるっていうし、だとしたらストライクゾーンが広すぎる。
雄基は渋い顔で答えた。
「そうじゃなくて……そういうのって、友達だけで会わせるわけじゃないんだろ」
「ああ、まあ、そうだね。最初は多分一緒につきあって、遊びに行ったりするのかな?」
首をひねって告げたみのりに、雄基はむすっとして言った。
「だから。──他の男にお前を会わせるのがいやだ」
みのりはぽかんと口を開けた。
「え? だって、私が友達を紹介してもらうわけじゃないんだよ?」
「それでもいやだ。絶対に。……行ってる学校が女子高だからとりあえず安心してたんだ。なのに、なんでほかの男にお前を会わせなきゃいけないんだ」
みのりの腰を抱きよせて、憤然とした口ぶりになる。
心のせまい彼氏の言葉にみのりは思わず絶句した。言われた意味がよくわからない。『そんな人だとは思わなかった』とまではさすがに言わないが、彼の新たな一面に次の言葉が出なくなる。
──もしかして、雄基君って独占欲強い……束縛系? 執着系?
もしかしなくてもそうだろう。数年越しの恋をこじらせ、強引に成就させたくらいだ。
かたまりかけた思考の中で持っていた枕を取り上げられる。雄基は再びみのりの体をベッドに押し倒しながら言った。
「悪いけど、いやなものはいやだ。そう友達に伝えてくれ。……そんな話はもういいから、みのり、もう一回これにさわって」
最後は甘くささやかれ、みのりは小さくため息をついた。
──ごめん、音々。
怒った友達の顔を思う。心の底から謝りながらみのりは彼の要求に答えた。
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