【完結】インキュバスな彼

第二章 バレた後

２４．

　ずっと考えていたことを口に出す。

「夢の中でも、たしか言ったよね？　『あんたのことがもっと知りたかった。たぶん好きだったと思う』って。だからもうそれが答えだよ。両方好きな人なんだし、べつに雄基君が影だったって何の問題もないんじゃないかな。むしろどっちか選ばずにすんで助かったって言うか……あれ？　もしかして、私って尻軽女？」

　首をひねって続けた言葉がだんだん言い訳じみてくる。
　苦笑している雄基に気づき、みのりも照れ笑いをした。ずれた話を仕切り直す。

「ええと……それでなんだっけ。あ、そうだ！　とにかく、私も雄基君とつきあいたいって話よ。で──さっそくなんだけど」

　さすがに視線を泳がせ、続ける。

「あの……おばあさんが、『早くしないと不能になる』って言ってたんだけど。雄基君、まだできる？」

　ぼそぼそたずねたみのりのつぶやきに、雄基が目をむいてみのりを見た。

「そんなことまで──……、ったく‼」

　天をあおいでうめいた後、がしがしとその頭をかく。

「できるできる、今すぐできる！　いくらでもできる！　もうたってる‼　……羞恥プレイもここまでくると快感だな。もういい、これ以上言わせんな」

　やけになったように答える。みのりは明るく切り出した。

「じゃ、行こっか」

　雄基が疲れた顔をした。

「どこに行くんだ」
「とりあえずコンビニ。まず、あの、あれ……買わないと。リアルなんだからないとこまるし。その後は──うちはお母さんいるし、さすがにちょっと無理かなあ。雄基君、今日おばさん帰るの遅い？」

　みのりが首をかたむけて聞くと、雄基はこれ以上ないくらいに目を見開いてみのりを見た。長々とため息をついてつぶやく。

「まったく、本当にお前は……」
「だってほら、早くしないと手遅れになっちゃうよ。お婆さんから聞いてるでしょ？」

　額を押さえて雄基が続ける。

「もういい、わかった。うち行くぞ。今日、親は二人とも出張だ」
「え、あれ……買わないと」
「家にある。友達にもらった。──制服姿でそんなもん買えるか」

　それだけ告げてきびすを返す。

──制服姿でって……女子高の前では立ってられるのに。

　みのりが心中で突っ込んでいると、ふと雄基が立ち止まった。再びみのりを振り返り、だまって腕をのばして来る。
　みのりは満面の笑みを浮かべてその手に自分の指をかさねた。大きな手のひらが温かく指先をつつみ込んで来る。みのりは夢の中でふれられた、影の手の温かさを思い出した。
　後は二人とも黙ったままで、雄基の家へ道を急いだ。