【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

16.

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「……! む──ッ、ん──ッ! んはっ‼」

 みのりが頭を左右に振って、深くからんでいた唇をなんとかはずすことに成功すると、今度は雄基が力いっぱいみのりの体を抱きすくめて来た。

「──忘れたなんて言わせない。こうやって何度も抱いたんだ。そっちだって答えてくれた。二人で練習しただろ、全部」
「い……いやいや、そうじゃなくって! おぼえてますよ、こっちも全部! でででも、今はそういう問題じゃなくってね‼」

 肺から空気が出そうなくらいにぎゅうぎゅう抱きつぶされながら、必死で言葉をつむぎ出す。

「まって、まってゆうきくん‼ もう一度冷静に話し合おう! 前からちょっと思ってたけど、ヤる気スイッチの切り替えすごすぎ‼」
「本当にうれしかったんだ。夜になるのが待ち遠しくて、毎晩すごく幸せで……」

 いっそう腕に力が入り、耳元で熱くかすれ声がささやく。みのりは思わず絶望にうめいた。

──ぜんっぜん聞いてないし‼

「やっぱりだめだ。今すぐしたい。我慢できない。一ノ瀬、また──」

 おれのものになって、とやるせなくささやかれた響きの後、きゅっと耳たぶを噛まれてしまう。

「あ……!」

 夢で覚えた快感が自分の奥底を刺激した。スキル「エロい」が覚醒し、激しい動悸と同時に芯から欲情がわき上がって来る。

──だめだって、これはリアルなんだって‼

 さすがに現実の世界では和姦へのクラスチェンジもまずい。絶体絶命の大ピンチにも反応してしまう体が憎い。

 混乱しているみのりの耳にさらに吐息が吹き込まれ、押しつけられた下半身のものが今までよりも固くなった。ぐいぐい腰をこすりつけながら、みのりの足のすきまへと無理やり入って来ようとする。
 影が興奮しきった時にせめて来た際のやりかたに、みのりはぎゅっとまぶたを閉じた。夢の中ではそのまま彼に深くまで体を開かされ、腰をゆらされてあえいでしまった。結局淫夢と同様に彼を受け入れてしまうのか。

──もう、だめ。

 考えたとたんに視界がぼやけ、みのりの瞳に涙がにじんだ。鼻の中がつんと痛くなり、勝手に喉の奥がしまる。

「……っ、やっぱりやだ……! こんなの、やっぱりやだってば……‼」

 しゃがれた声で訴えて、まるで小さな子供のように肩を震わせて嗚咽する。
 夢と違ってリアルの何が嫌なのかはよくわからない。しかしこのままおたがいの欲情に流されてしまうのは嫌だった。
 その時雄基の動きが止まった。しゃくり上げているみのりを見下ろし、呆然とした顔をする。

「あ……、俺」

 うめき声をもらすとともに雄基はみのりから体を離した。大きく深呼吸をくり返し、そろそろとその場から立ち上がる。

「ごめん。悪い……一ノ瀬。──ああもう‼ なんでこうなるんだ、ちくしょう‼」

 最後はほえるように吐き捨て、雄基が大またで部屋を出て行く。
 みのりはぐずぐず泣きながら、逃げ出すように消え去る彼の広い背中を見送った。
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