【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

15.

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 切腹直前の武士を思わせる彼の悲壮な顔つきに、みのりはただただあぜんとした。言われたことの内容は卑猥だが、口調はまるで辞世の句だ。
 雄基はあらためて向き直り、すわった目をしてみのりを見すえた。

「本当は今日来るのも止めようと思ってた。下手に期待してうらぎられたら、理性がきくか自信がない。でも、これで最後だと思って──今日だけ耐えれば終わると思って、やっとここまでやって来たんだ。だから早く楽にして欲しい。お前は俺とやる気があるか?」

──なんだこれ、心中のおさそいかなんか!?

 みのりは顔を引きつらせた。どうやら今すぐ本番をせまられているらしい空気だが、おさそいを受けてもお断りをしても、穏便に済むような気配ではない。

 雄基がわずかに体を起こした。みのりはびくっと身を引いた。彼の真剣なまなざしがじりじりと確実に近づいて来て、その目力のあまりの強さに呼吸が止まりそうになる。

「ちょ、ちょっと雄基君、自分で何言ってるかわかってる!? ほんとにいったん落ち着こうか!」

 みのりはあわててカップをもどし、持って来たふきんを手に取った。コーヒーまみれの雄基の服をおろおろしながらぬぐってやる。ここで雄基を本来の理性ある彼にもどさなければ、二人して道をふみはずしそうだ。
 だがそのふきんを持った手首を雄基ががしっとつかみ上げた。茶色い布がぽろりと落ちる。

「もう無理だ。──多分、時間切れだ」

 低くつぶやいた彼の唇がみのりの前でわずかにゆがんだ。次の瞬間、一気に視界に雄基の顔がよって来て、唇が何かにふさがれた。

「……っ、んんん!?」

 息ができなくなった衝撃に両目を白黒させていると、そのままどさっと体が倒され、重いものが上に乗って来た。
 どうやら雄基にキスをされながら押し倒されてしまったらしい。まったく身動きができない状態で、さっき自分が思いきりふきかけたコーヒーの匂いがおおいかぶさる。

 五分前までは予想もしなかったとんでもない今の状況に、みのりは目を丸くしたままで抵抗するのも忘れていた。決して知らないわけではない、ぬれた感触のものが口を割る。
  熱いぬるっとしたものが前歯の間をこじ開けて、みのりの口中をまさぐった。手荒いながらもなれた動きで奥歯の横をはい回る。

 夢で学んだ弱い所を的確な動きでとらえられ、みのりはぞくっとえりをちぢめた。そういや影は物覚えがよかった──なんて、そんなのんきすぎることをぼやっと考えているうちに、キスをしていた雄基の呼吸が今まで以上に切なげに乱れた。

「はっ……、あ」

 色っぽいような声さえもれて、押しつけられた股間の隆起がぐっとみのりの太腿に当たる。その時、やっと現実で雄基に襲われていることに気づいて、みのりの顔から血の気が引いた。

──やばい。このままじゃ本当に、ここで本当の本番だ‼

 夢とリアルは違うのだ。ここでこのまま彼に流されたら、本当に彼の母親が言っていた「責任が取れない」という事態にもなりかねない。
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