【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

13.

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 その後、雄基は送りオオカミに変身するようなこともなく、きちんと師匠の家の前までみのりを送り届けてくれた。
 かつみは仕事で出ていたが、いつものおばちゃん従業員が笑顔で待っていてくれた。ただ雄基がいなくなったとたん、現在の二人の進捗状況をブルドーザーなみの勢いで掘られた。

 次の日、みのりは学校からは別段何も言われずに、呼び出しをくらうようなこともなかった。多分職員室の中では時の人になっているのだろうが、例の緑陽マジックのせいで黙認することにしたらしい。
 しかしさすがにみのりの周囲は、今の繊細な乙女のハートにまったく配慮などしてくれなかった。登校途中から顔見知りにはあらゆる方向から呼びつけられ、全然知らない下級生からも堂々と人さし指をさされる。

 全校生徒を巻き込んだような望んでもいない羞恥プレイに、みのりの中のなけなしの乙女がゴリゴリけずられる思いになる。教室になど入ろうものならすべての視線がみのりに刺さった。

「みのりいいいィ」

 地獄の底からはい出る響きの音々の声音に耳をふさぐ。みのりは机につっぷして、今日何十回目かの言葉をくり返した。

「だから例の陰キャだって。華道教室で一緒の男子」
「うそおおお‼ だってLDHなみのルックスで、すっごい背が高いイケメンだったって──みのりをお姫様抱っこした後、その場からワイルドにいなくなったとか」

 音々がムンクの叫びのように両頬を押さえながら叫ぶ。みのりは遠い目になった。
 話に尾ヒレがついたどころか全速力で遠泳している。水平線の彼方らしくて、もう自分には追いつけない。

「ちがうよ。お母さんの仕事の関係で一緒に手伝わなくちゃいけなくて。ラインの交換もしてなかったから、しかたなく待ってたんだって」

 ラインは本当に本当だ。今まで母親を介してしか連絡を取ったことがなく、昨日やっとそれに気づいて初めてラインを交換したのだ。
 送ってくれた店の入り口でスマホの画面を眺めつつ、うれしそうな顔をしている彼にみのりも心がなごんだ。

「紹介、とにかく紹介して。その人の友達でもいいから」

 音々にがくがくと肩をゆさぶられ、ふっとニヒルな笑いがこぼれる。

──自分の恋愛さえままならないのに、なんで友達の紹介なんか……。

 今まで使ったことのない複雑な表情筋が引きつった。
 恋愛とは大変なものだ。内腿の筋肉だけでなく、頬の筋肉まできたえねばならない。

 流言飛語に流されながら大混乱を泳ぎきり、みのりはへとへとになりつつも一週間を乗り越えた。
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