【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

8.

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「多分あれは先月の終わりだ。学校から帰って来る途中、俺は道ばたで占いをやってる婆さんに気がついたんだ。雨が降ってるのにそのままで、前に台を出して座ってた」

 思い出すような表情で、雄基は言葉を選びつつ言った。

「元町の通りなんだけど、何度も通ったことがあるのに占いなんて見るのは初めてで。ちょっと気になって様子を見てたら、けっこうびしょびしょなことがわかって。何だかかわいそうになって、その時自分がさしてたカサを婆さんに渡してやったんだ」

 情景を想像していたみのりは雄基らしい行動に微笑んだ。心優しい彼のことだ。気の毒な老人の姿を見たらそれくらいしてやるだろう。
 雄基は少し恥ずかしそうにそっぽを向いて話を続けた。

「べつに、ただのビニール傘だったし。それでそのまま帰ろうとしたら、婆さんが声をかけて来て……」

──お兄さん、珍しいね。

 深くストールをかぶっていたのでその表情はわからなかったが、どこか楽しげな声だったらしい。

──お兄さんのような人間に私が見えるのは珍しい。よっぽど深い悩みがあるんだね。

 渡されたカサを受け取ると、老婆はそのお礼にと雄基にあるものを手渡した。

──せっかくだからこれをやるよ。あんたは親切にしてくれた。これならうまく使えれば、あんたの思いは通じるだろう。そりゃあ少しは危険もあるが、多分あんたなら大丈夫だ。

 どこか不穏な言葉と共に老婆が渡して来たものは、にぶい銀色の指輪だった。

「もらうつもりはなかったんだ。でも、気がついたら手の中にもう入ってて。返せばいいのに、それもできなかった」

 困ったような雄基の言葉に、みのりはわずかに首をかしげた。元町と言えばみのりも友達とよく買い物に行く繁華街だが、そんなあやしい占い師なんて見たことも聞いたこともない。
 なれなれしげな老婆の口調に雄基は妙に引き込まれ、話を聞いていたそうだ。そんな経験は初めてで、まるで催眠術にでもかかった気分だったらしい。
 
「結局俺はそれをもらってその日はそのまま家に帰った。でも落ち着いて考えると、やっぱりおかしなことばっかりで。次の日指輪を返しに行ったけど、もう婆さんはどこにもいなかった」
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