【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

7.

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「片づけができない」という母親にはどうやら彼は似なかったらしく、その広々とした部屋は十分に整理されていた。
 勉強机や本棚、テレビがゆったりとした間取りで置かれ、小型冷蔵庫までがある。雄基が一人で使うにはもったいないほどのスペースだ。
 ここまで入ったことのなかったみのりは単純に興味がわいて、きょろきょろあたりを見回した。兄貴のせまく汚い部屋とは雲泥の差で感心する。

──どうしよう。むしろ私の方がごちゃごちゃしてて部屋を見せられない。

 荷物を机のわきに置き、雄基は今まで持っていたみのりのリュックを返してくれた。受け取りながらも視線を動かす興味津々なみのりに苦笑する。

「一応ちょっと片づけたんだ。昨日帰って来てから、少し」

 告げられたその内容に、昨夜逃げ出した自分の代わりに彼がアシスタントをしたことを思い出す。みのりはおずおずしながらも一応雄基にお礼を言った。

「あ……。昨日はありがとう。私の代わりをしてくれて」

 そんなこと、当然の話だ。誰のせいだと思ってるんだ──と考えられないところがきっと、自分はお人好しなのだろう。
 雄基は小さく肩をすくめた。

「女って、あんなにいつまでも話をしてるものなんだな。よくあれだけしゃべるネタがある。聞いてるこっちの方が疲れた」
「ああ、まあ……うん、そうだね」

 自分の学校内の様子と、いつもの夜のお稽古の様子を思いくらべながらうなずく。年齢層は多少違うが、雰囲気はまあ似たようなものだ。

「持ってた花材がしおれるくらい、挿さずにずっとしゃべってて。親身になってくれるのはいいけど、あの人達何しに来てるんだ?」

──女子力とリア充とインスタのためです。

 伝統芸能と今のはやりは案外相性がいいらしい。終わった後は撮影大会になるいつもの情景を思い出し、きっととまどったに違いない雄基を考えて苦笑した。

 雄基は部屋にそなえつけられている冷蔵庫のとびらを開けて、中から五百ミリリットルのペットボトルを取り出した。炭酸飲料をみのりに手渡し、自身もボトルのふたを開ける。
 喉がかわいていたらしく、ボトルの半分近くまで中身を一気飲みすると、一息ついてゲップをした。思わずみのりがくすっと笑うと雄基も照れたように笑い、その場の雰囲気がほぐれた。
 落ち着いた藍色のラグの上になれた様子ですわり込み、雄基は立ったままのみのりをながめた。

「すわれよ」

 みのりは少しとまどいながらもラグのはじに正座した。開かれたままになっている背後のドアを意識する。
 だって、机の反対側には雄基が使っているらしい、ラグに合わせたベッドカバーがかけられたベッドが置いてあるのだ。さすがに今の状況で緊張しないわけがない。
 とりあえずみのりもボトルを開けて、落ち着くために一口飲む。じっとみのりの様子を見ていた雄基があらためて口を開いた。

「話、していいか」

 真剣な口調で言われ、みのりはぴんと背筋を伸ばした。

「うん。いいよ」

 心の準備ができたみのりに雄基は静かな声で語った。
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