34 / 81
第二章 バレた後
7.
しおりを挟む
「片づけができない」という母親にはどうやら彼は似なかったらしく、その広々とした部屋は十分に整理されていた。
勉強机や本棚、テレビがゆったりとした間取りで置かれ、小型冷蔵庫までがある。雄基が一人で使うにはもったいないほどのスペースだ。
ここまで入ったことのなかったみのりは単純に興味がわいて、きょろきょろあたりを見回した。兄貴のせまく汚い部屋とは雲泥の差で感心する。
──どうしよう。むしろ私の方がごちゃごちゃしてて部屋を見せられない。
荷物を机のわきに置き、雄基は今まで持っていたみのりのリュックを返してくれた。受け取りながらも視線を動かす興味津々なみのりに苦笑する。
「一応ちょっと片づけたんだ。昨日帰って来てから、少し」
告げられたその内容に、昨夜逃げ出した自分の代わりに彼がアシスタントをしたことを思い出す。みのりはおずおずしながらも一応雄基にお礼を言った。
「あ……。昨日はありがとう。私の代わりをしてくれて」
そんなこと、当然の話だ。誰のせいだと思ってるんだ──と考えられないところがきっと、自分はお人好しなのだろう。
雄基は小さく肩をすくめた。
「女って、あんなにいつまでも話をしてるものなんだな。よくあれだけしゃべるネタがある。聞いてるこっちの方が疲れた」
「ああ、まあ……うん、そうだね」
自分の学校内の様子と、いつもの夜のお稽古の様子を思いくらべながらうなずく。年齢層は多少違うが、雰囲気はまあ似たようなものだ。
「持ってた花材がしおれるくらい、挿さずにずっとしゃべってて。親身になってくれるのはいいけど、あの人達何しに来てるんだ?」
──女子力とリア充とインスタのためです。
伝統芸能と今のはやりは案外相性がいいらしい。終わった後は撮影大会になるいつもの情景を思い出し、きっととまどったに違いない雄基を考えて苦笑した。
雄基は部屋にそなえつけられている冷蔵庫のとびらを開けて、中から五百ミリリットルのペットボトルを取り出した。炭酸飲料をみのりに手渡し、自身もボトルのふたを開ける。
喉がかわいていたらしく、ボトルの半分近くまで中身を一気飲みすると、一息ついてゲップをした。思わずみのりがくすっと笑うと雄基も照れたように笑い、その場の雰囲気がほぐれた。
落ち着いた藍色のラグの上になれた様子ですわり込み、雄基は立ったままのみのりをながめた。
「すわれよ」
みのりは少しとまどいながらもラグのはじに正座した。開かれたままになっている背後のドアを意識する。
だって、机の反対側には雄基が使っているらしい、ラグに合わせたベッドカバーがかけられたベッドが置いてあるのだ。さすがに今の状況で緊張しないわけがない。
とりあえずみのりもボトルを開けて、落ち着くために一口飲む。じっとみのりの様子を見ていた雄基があらためて口を開いた。
「話、していいか」
真剣な口調で言われ、みのりはぴんと背筋を伸ばした。
「うん。いいよ」
心の準備ができたみのりに雄基は静かな声で語った。
勉強机や本棚、テレビがゆったりとした間取りで置かれ、小型冷蔵庫までがある。雄基が一人で使うにはもったいないほどのスペースだ。
ここまで入ったことのなかったみのりは単純に興味がわいて、きょろきょろあたりを見回した。兄貴のせまく汚い部屋とは雲泥の差で感心する。
──どうしよう。むしろ私の方がごちゃごちゃしてて部屋を見せられない。
荷物を机のわきに置き、雄基は今まで持っていたみのりのリュックを返してくれた。受け取りながらも視線を動かす興味津々なみのりに苦笑する。
「一応ちょっと片づけたんだ。昨日帰って来てから、少し」
告げられたその内容に、昨夜逃げ出した自分の代わりに彼がアシスタントをしたことを思い出す。みのりはおずおずしながらも一応雄基にお礼を言った。
「あ……。昨日はありがとう。私の代わりをしてくれて」
そんなこと、当然の話だ。誰のせいだと思ってるんだ──と考えられないところがきっと、自分はお人好しなのだろう。
雄基は小さく肩をすくめた。
「女って、あんなにいつまでも話をしてるものなんだな。よくあれだけしゃべるネタがある。聞いてるこっちの方が疲れた」
「ああ、まあ……うん、そうだね」
自分の学校内の様子と、いつもの夜のお稽古の様子を思いくらべながらうなずく。年齢層は多少違うが、雰囲気はまあ似たようなものだ。
「持ってた花材がしおれるくらい、挿さずにずっとしゃべってて。親身になってくれるのはいいけど、あの人達何しに来てるんだ?」
──女子力とリア充とインスタのためです。
伝統芸能と今のはやりは案外相性がいいらしい。終わった後は撮影大会になるいつもの情景を思い出し、きっととまどったに違いない雄基を考えて苦笑した。
雄基は部屋にそなえつけられている冷蔵庫のとびらを開けて、中から五百ミリリットルのペットボトルを取り出した。炭酸飲料をみのりに手渡し、自身もボトルのふたを開ける。
喉がかわいていたらしく、ボトルの半分近くまで中身を一気飲みすると、一息ついてゲップをした。思わずみのりがくすっと笑うと雄基も照れたように笑い、その場の雰囲気がほぐれた。
落ち着いた藍色のラグの上になれた様子ですわり込み、雄基は立ったままのみのりをながめた。
「すわれよ」
みのりは少しとまどいながらもラグのはじに正座した。開かれたままになっている背後のドアを意識する。
だって、机の反対側には雄基が使っているらしい、ラグに合わせたベッドカバーがかけられたベッドが置いてあるのだ。さすがに今の状況で緊張しないわけがない。
とりあえずみのりもボトルを開けて、落ち着くために一口飲む。じっとみのりの様子を見ていた雄基があらためて口を開いた。
「話、していいか」
真剣な口調で言われ、みのりはぴんと背筋を伸ばした。
「うん。いいよ」
心の準備ができたみのりに雄基は静かな声で語った。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる