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第二章 バレた後
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一体何が起こったのか。
汗くさくなった空手着をリュックサックにつめこみながら、みのりは再び開き始めた思考回路を無理やり閉じた。
──いろんなことがありすぎて、もう考えることもしたくない。
口元をぎゅっと引きしめて、部室のロッカーをばんと閉じる。
普段と違うみのりの様子を周囲も感じ取ったらしい。仲がいい部長の坂下小春も、いつもは気さくに声をかけてくれる後輩達も無言のままで、みのりの行動を見守っている。
部内の雰囲気を悪くしている自分にやっと気がついて、みのりは息を吐き出した。
「……ごめん、今日ちょっとお腹痛くて。やっぱり無理したらダメっぽい。悪いけど先に上がらせてもらうね」
頭をかいて謝ると、気のいい小春の丸顔がほっとしたような表情になった。
「ああ、やっぱり? みのりにしては珍しいね。いいから早く帰りなよ、鍵は私が預かるから」
いつもは部活の後にみんなと仲良くお茶しに行くのだが、今日は到底そんなことはできそうもない気分だった。鍵当番だった副部長のみのりは部室の鍵を小春に渡し、肩を落とすと部屋を出た。
──何の関係もないみんなにまで嫌な思いをさせてしまった。
本来ムードーメーカーであるみのりがこんな状態なのは、本当に珍しいことだった。嫌なことがあっても忘れる良く言えばおおらかな性格も、今日はさすがにへそと同様急カーブしていたらしい。未熟な自分に息をつき、みのりは体育館を出た。
*
あの後、ベッドにつっぷしたままみのりはノックを聞いていた。
すべてに裏切られた気分で、もう何も信じられなかった。部屋に閉じこもったまま出て来ない娘に、あきらめたようにかつみが言い置く。
「……とにかく雄基君あやまってたから。このままってわけにはいかないだろうし、二人でよく話し合いなさい」
存外静かな母親の声に再び怒りが込み上げる。
──どうせ雄基君のお母さんから聞いてたんでしょうよ。雄基君が私を好きだって。「みのりはニブいからね」とかなんとか二人でこそこそうわさして、みんなで何も知らない私を影から好きに笑ってて……。
被害妄想気味の考えをぶんぶん頭を振って打ち切る。
結局お稽古のアシスタントは、その場から逃げたみのりの代わりにどうやら雄基がつとめたようだ。夜の生徒さん達のほとんどは仕事帰りのOLだ。決して見栄えは悪くない、緑陽の制服姿の男子にお姉さま方はお喜びだったらしい。さらに彼女らが大好物の恋バナの対象ともなれば、その場の雰囲気がはなやいだことはどう考えても自明の理だろう。
──これからは、ずっとあいつが夜の教室のアシスタントをすればいいんだ。
自分でもわけのわからない怒りにみのりは拳を握りしめた。
とにかく何が理不尽かって、こっちは夢の相手を「雄基」だと認識していなかったのに、相手はどうやらみのりを夢でも「みのり」だとわかっていたことだ。いくら大ざっぱで適当なみのりでも、相手が兄弟弟子の雄基で、しかもそのことをリアルでも覚えていると知っていたら、あんな恥ずかしいことはしなかった。
夢だと思っていたからこそ、また、相手がどこの誰だかもわからなかったからこそあんなことが──まだ立派な処女のはずなのに、もう嫁に行ける気がしない──まあ何とかできたわけだ。あんな大胆なあれやこれやをすべて雄基としていたなんて、軽く死にたくて泣けてくる。
汗くさくなった空手着をリュックサックにつめこみながら、みのりは再び開き始めた思考回路を無理やり閉じた。
──いろんなことがありすぎて、もう考えることもしたくない。
口元をぎゅっと引きしめて、部室のロッカーをばんと閉じる。
普段と違うみのりの様子を周囲も感じ取ったらしい。仲がいい部長の坂下小春も、いつもは気さくに声をかけてくれる後輩達も無言のままで、みのりの行動を見守っている。
部内の雰囲気を悪くしている自分にやっと気がついて、みのりは息を吐き出した。
「……ごめん、今日ちょっとお腹痛くて。やっぱり無理したらダメっぽい。悪いけど先に上がらせてもらうね」
頭をかいて謝ると、気のいい小春の丸顔がほっとしたような表情になった。
「ああ、やっぱり? みのりにしては珍しいね。いいから早く帰りなよ、鍵は私が預かるから」
いつもは部活の後にみんなと仲良くお茶しに行くのだが、今日は到底そんなことはできそうもない気分だった。鍵当番だった副部長のみのりは部室の鍵を小春に渡し、肩を落とすと部屋を出た。
──何の関係もないみんなにまで嫌な思いをさせてしまった。
本来ムードーメーカーであるみのりがこんな状態なのは、本当に珍しいことだった。嫌なことがあっても忘れる良く言えばおおらかな性格も、今日はさすがにへそと同様急カーブしていたらしい。未熟な自分に息をつき、みのりは体育館を出た。
*
あの後、ベッドにつっぷしたままみのりはノックを聞いていた。
すべてに裏切られた気分で、もう何も信じられなかった。部屋に閉じこもったまま出て来ない娘に、あきらめたようにかつみが言い置く。
「……とにかく雄基君あやまってたから。このままってわけにはいかないだろうし、二人でよく話し合いなさい」
存外静かな母親の声に再び怒りが込み上げる。
──どうせ雄基君のお母さんから聞いてたんでしょうよ。雄基君が私を好きだって。「みのりはニブいからね」とかなんとか二人でこそこそうわさして、みんなで何も知らない私を影から好きに笑ってて……。
被害妄想気味の考えをぶんぶん頭を振って打ち切る。
結局お稽古のアシスタントは、その場から逃げたみのりの代わりにどうやら雄基がつとめたようだ。夜の生徒さん達のほとんどは仕事帰りのOLだ。決して見栄えは悪くない、緑陽の制服姿の男子にお姉さま方はお喜びだったらしい。さらに彼女らが大好物の恋バナの対象ともなれば、その場の雰囲気がはなやいだことはどう考えても自明の理だろう。
──これからは、ずっとあいつが夜の教室のアシスタントをすればいいんだ。
自分でもわけのわからない怒りにみのりは拳を握りしめた。
とにかく何が理不尽かって、こっちは夢の相手を「雄基」だと認識していなかったのに、相手はどうやらみのりを夢でも「みのり」だとわかっていたことだ。いくら大ざっぱで適当なみのりでも、相手が兄弟弟子の雄基で、しかもそのことをリアルでも覚えていると知っていたら、あんな恥ずかしいことはしなかった。
夢だと思っていたからこそ、また、相手がどこの誰だかもわからなかったからこそあんなことが──まだ立派な処女のはずなのに、もう嫁に行ける気がしない──まあ何とかできたわけだ。あんな大胆なあれやこれやをすべて雄基としていたなんて、軽く死にたくて泣けてくる。
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