26 / 81
第一章 バレる前
17.
しおりを挟む
背後に引いたかかとがまともに机の脚に引っかかり、後ろへと倒れそうになった。
とっさに雄基が腕をのばしてみのりの背中をささえてくれる。だが、近すぎる彼の体にみのりは逆に背中をそらした。逃げたみのりを受け止めきれず、雄基も一緒にその場に倒れる。
「うわっ……!」
「きゃあっ」
転がるようにしてかさなった形になぜか慣れた感覚を覚え、みのりは自分の上にある雄基の整った顔を仰いだ。目を見開いた彼のシャープな顎のラインに見覚えがある。
──え?
みのりはぱちぱちとまばたきした。
それは絶対にありえないことだが、何度も体を重ねた例の影の輪郭にそっくりだった。
「え? え? え?」
自分の視界になじんでしまったなつかしいその面影に、頭の方が追いつかなくて激しいパニックを引き起こす。
この人のこと、多分、知ってる。
もちろん、雄基は知り合いの雄基であるとわかっている。しかし自身の感覚が、経験としてものを言っていた。自分の上に乗っている慣れた重みや体の線(制服が夏服に変わったせいで、シャツを着ていてもそれなりにわかる)が、彼が毎晩通って来ていた例の影だと物語っている。
──いやそんな、馬鹿な。
しびれたようになっている思考回路を叱咤して、みのりは自身に言い聞かせた。
もしかして、自分の脳が勝手にこの人をモデルにしたのかも。ちょうど手近な彼をモデルに影を作ったのかもしれない。だったらなんて失礼なことを。雄基君本当にごめんなさい。しかし、それにしてはまたなんてリアルな……。
「ご、ごめん」
あわを食ったような表情で雄基が上体を起こした。そこでみのりも今の危ない状況にやっと気がついて、あわててその場から起き上がった。
「こ、こ、こっちこそごめんね」
激しい動揺を押さえながらも雄基から離れようとしたみのりは、床に手のひらをついていた彼の指先をふんでしまった。
「いっ、つ……! また──」
眉をしかめた雄基の口からこぼれ出たそのつぶやきに、みのりはまなじりを見開いた。
──あれ。
今、雄基君なんて言った。
「……また?」
みのりが思わずもらした言葉に、雄基がはっとしてみのりを見る。
それは、確実にみのりの夢の内容を知っている顔だった。
──雄基君、あのこと知ってる。
覚えてしまった体のラインと共有しているシチュエーションに、雄基が例の影だったことを心の底から確信する。みのりは顎がはずれそうになった。
とっさに雄基が腕をのばしてみのりの背中をささえてくれる。だが、近すぎる彼の体にみのりは逆に背中をそらした。逃げたみのりを受け止めきれず、雄基も一緒にその場に倒れる。
「うわっ……!」
「きゃあっ」
転がるようにしてかさなった形になぜか慣れた感覚を覚え、みのりは自分の上にある雄基の整った顔を仰いだ。目を見開いた彼のシャープな顎のラインに見覚えがある。
──え?
みのりはぱちぱちとまばたきした。
それは絶対にありえないことだが、何度も体を重ねた例の影の輪郭にそっくりだった。
「え? え? え?」
自分の視界になじんでしまったなつかしいその面影に、頭の方が追いつかなくて激しいパニックを引き起こす。
この人のこと、多分、知ってる。
もちろん、雄基は知り合いの雄基であるとわかっている。しかし自身の感覚が、経験としてものを言っていた。自分の上に乗っている慣れた重みや体の線(制服が夏服に変わったせいで、シャツを着ていてもそれなりにわかる)が、彼が毎晩通って来ていた例の影だと物語っている。
──いやそんな、馬鹿な。
しびれたようになっている思考回路を叱咤して、みのりは自身に言い聞かせた。
もしかして、自分の脳が勝手にこの人をモデルにしたのかも。ちょうど手近な彼をモデルに影を作ったのかもしれない。だったらなんて失礼なことを。雄基君本当にごめんなさい。しかし、それにしてはまたなんてリアルな……。
「ご、ごめん」
あわを食ったような表情で雄基が上体を起こした。そこでみのりも今の危ない状況にやっと気がついて、あわててその場から起き上がった。
「こ、こ、こっちこそごめんね」
激しい動揺を押さえながらも雄基から離れようとしたみのりは、床に手のひらをついていた彼の指先をふんでしまった。
「いっ、つ……! また──」
眉をしかめた雄基の口からこぼれ出たそのつぶやきに、みのりはまなじりを見開いた。
──あれ。
今、雄基君なんて言った。
「……また?」
みのりが思わずもらした言葉に、雄基がはっとしてみのりを見る。
それは、確実にみのりの夢の内容を知っている顔だった。
──雄基君、あのこと知ってる。
覚えてしまった体のラインと共有しているシチュエーションに、雄基が例の影だったことを心の底から確信する。みのりは顎がはずれそうになった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる