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第一章 バレる前
14.
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見覚えのある空間を久しぶりに理解して、みのりは自分の前にいるなつかしい影に気がついた。いつものように膝をつき、みのりの様子をうかがっている。
「あ……。久しぶり」
普通に挨拶した後で、みのりは影に笑いかけた。
「元気? って言うのも何か変かな。でもよかった、もう一度会えて」
みのりが伝えた内容に、影が驚いたように見えた。みのりはくすくす笑って続けた。
「大丈夫、怒ってないから。あの後けっこう気になってたの、何かわけがあったのかなって。多分あんたのことだから、理由がなければあんなことしないでしょ。あの時はちょっとびっくりしたけど、さすがにもう、それくらいわかるよ」
おだやかなみのりの語りかけに影は安心したようだった。そろそろと右手をみのりに伸ばし、頬を大きな手のひらで優しく包み込んで来る。このまま以前と同様に体を重ねるかと思ったが、影はそれ以上のことをしなかった。
みのりは影の見えない顔をじっと見上げて口を開いた。
「──あんたのことは嫌いじゃないけど、やっぱりこんなの変だと思う」
そう切り出したみのりの言葉に影はそっと手のひらを離した。
影の静かな反応に、みのりは真剣な声で続けた。
「きっとあんたも気づいてたでしょ? 何もわからないこの状態はたぶん楽だし、気持ちいい。でも、これだけじゃこのままだよ? これから先なんてないんだろうし、私はこんなリアルな夢を夢だなんてわり切れない」
そこまで言って再び微笑む。
「あんたのことがもっと知りたかった。多分、好きだったと思う。でも、このままならもう会えない。……ごめんね。今までありがとう」
みのりが伝えた決別に、影はみのりを凝視した。表情はないが、理解したらしい。今までのように会ったとたんにみのりを押し倒さなかったことからも、どうやら影もみのりと同じ思いを抱いていたらしかった。
みのりは再び影を見上げて、自分から顔を近づけた。そっと影に唇をよせると影もその顔をよせて来た。柔らかく唇を重ねた後、影がみずから体を引く。
みのりは思いを振り切るようにそこから立ち上がろうとした。勢いあまって、手をついていた影の指先をふんでしまい、痛そうなしぐさで手を引っ込める彼にあわてて謝罪する。
「あ、ごめん」
──どうも最後までしまらないなあ。
最後くらいはかっこよく静かに離れたかったのに、よくよく自分は落ち着きというシロモノに縁がないらしい。
膝をついたままみのりを見上げ、苦笑しているような影に思わず照れ笑いを浮かべると、周囲が次第に明るくなった。
気がつくと、みのりはいつもと同様に自分のベッドの中にいた。
──多分、これで良かったんだ。
見慣れた天井を眺めやり、みのりはすがすがしい気分になった。
「あ……。久しぶり」
普通に挨拶した後で、みのりは影に笑いかけた。
「元気? って言うのも何か変かな。でもよかった、もう一度会えて」
みのりが伝えた内容に、影が驚いたように見えた。みのりはくすくす笑って続けた。
「大丈夫、怒ってないから。あの後けっこう気になってたの、何かわけがあったのかなって。多分あんたのことだから、理由がなければあんなことしないでしょ。あの時はちょっとびっくりしたけど、さすがにもう、それくらいわかるよ」
おだやかなみのりの語りかけに影は安心したようだった。そろそろと右手をみのりに伸ばし、頬を大きな手のひらで優しく包み込んで来る。このまま以前と同様に体を重ねるかと思ったが、影はそれ以上のことをしなかった。
みのりは影の見えない顔をじっと見上げて口を開いた。
「──あんたのことは嫌いじゃないけど、やっぱりこんなの変だと思う」
そう切り出したみのりの言葉に影はそっと手のひらを離した。
影の静かな反応に、みのりは真剣な声で続けた。
「きっとあんたも気づいてたでしょ? 何もわからないこの状態はたぶん楽だし、気持ちいい。でも、これだけじゃこのままだよ? これから先なんてないんだろうし、私はこんなリアルな夢を夢だなんてわり切れない」
そこまで言って再び微笑む。
「あんたのことがもっと知りたかった。多分、好きだったと思う。でも、このままならもう会えない。……ごめんね。今までありがとう」
みのりが伝えた決別に、影はみのりを凝視した。表情はないが、理解したらしい。今までのように会ったとたんにみのりを押し倒さなかったことからも、どうやら影もみのりと同じ思いを抱いていたらしかった。
みのりは再び影を見上げて、自分から顔を近づけた。そっと影に唇をよせると影もその顔をよせて来た。柔らかく唇を重ねた後、影がみずから体を引く。
みのりは思いを振り切るようにそこから立ち上がろうとした。勢いあまって、手をついていた影の指先をふんでしまい、痛そうなしぐさで手を引っ込める彼にあわてて謝罪する。
「あ、ごめん」
──どうも最後までしまらないなあ。
最後くらいはかっこよく静かに離れたかったのに、よくよく自分は落ち着きというシロモノに縁がないらしい。
膝をついたままみのりを見上げ、苦笑しているような影に思わず照れ笑いを浮かべると、周囲が次第に明るくなった。
気がつくと、みのりはいつもと同様に自分のベッドの中にいた。
──多分、これで良かったんだ。
見慣れた天井を眺めやり、みのりはすがすがしい気分になった。
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