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第一章 バレる前
12.
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「え? 雄基君が手伝ってくれたから、とりあえず今は平気だけど。何?」
首をかしげて答えると、真剣なまなざしを向けて来る。長テーブルを間にはさんでみのりの前に立った雄基は、妙な迫力をかもし出していた。困惑して彼を見上げると思いつめた顔で口を開く。
「前からずっと言おうと思ってたんだけど。……俺は、一ノ瀬のことが好きだ。昔から好きだったんだ」
言われた言葉の内容に、みのりはぽかんと口を開けた。
好き。
雄基君が、私を。
まったく思ってもいなかった告白に思考能力がかたまった。
……好きってどういう意味だっけ?
犬が好き。
イチゴが好き。
体を動かすことが好き。
脳でいらない例題が勝手にぐるぐる回り出す。「人名」+「好き」というあまり聞かない文脈に、少女マンガに出て来るような言葉のならびだなと考えた。
「──え?」
どうやらかなりの間中、黙ってまぬけ面をしていたらしい。ぼんやりとしたみのりの答えに雄基が深くため息をついた。
「やっぱり気づいてなかったのか。いくら何でも鈍すぎだろ」
見なれた雄基の表情がなんだかくだけた感じになる。がしがしと頭をかいて、少し照れたように顔をそむけた。
同年代の男の子らしい、気取らないその雰囲気に、みのりはさらにあっけに取られた。いつもみのりと自分の間に一本線を引いていたような、あのかた苦しい印象がきれいさっぱり消えている。まるで小学生の頃の空気にもどったようだった。
「バレンタインデーにチョコをもらった時、その場で伝えればよかったんだ。けど、その時は頭が真っ白になって……。次の週こそこっちから告白しようと思ったら、インフルで休んでるって言うし。仕方がないから、ホワイトデーにお返しと一緒に言おうと思ってたんだけど、今度は俺がインフルエンザで──」
「え? ほんとにインフルエンザ? 会いたくないから仮病を使ってたんじゃなくて?」
思わずたずねた内容にあきれたような目をされる。
「違う。本当はそれでも届けに行こうと思ってたんだ。でも母親に止められて、『かわりに届けてあげようか』なんてよけいなことを言われたせいで、腹が立って」
「ゆ、雄基君、今日はよくしゃべるね」
耳なれないはずの雄基の声が次々と聞こえる現状に、みのりはただただあぜんとしていた。思ってもみなかった今の状況に頭の中がフリーズして、そんなことしか思いつかない。
雄基はきっぱり言い切った。
「いくら黙って思っていても、ちゃんと言わないと通じない。やっとそれがわかったんだ」
ぽかんとしているみのりをながめ、開き直ったように続ける。
「かっこつけても仕方がないし、照れてるような場合じゃない。一ノ瀬相手ならなおさらだ。ここまで来てやっとそれがわかった。──それで、一ノ瀬はどうなんだ?」
再び真剣な声が響いた。うろたえて顔を見上げると、雄基の熱っぽいまなざしが見下ろすように見つめて来る。
「一ノ瀬はどう思ってるんだ、俺の事。少しは気にしてくれてるのか?」
十分上背がある彼のせまり来るような勢いに、みのりは背中を硬直させた。
今までの硬派な印象がまるで嘘だったかのような──いや、今までため込んで来た思いを一気にぶちまけるような告白に、みのりは完全にのまれていた。今度はこっちが「あ」とか「う」とか、そんな声しか出なくなる。
しばらくみのりの引きつり顔を雄基はじっとながめていたが、再び息をもらした後、みのりから一歩退いた。口元に小さく苦笑を乗せる。
「ごめん。ちょっと急ぎすぎた。こっちも少しあせってて。いきなりの告白だっただろうし、びっくりしたのはわかってる。一ノ瀬が何も気づいてないのは知ってたし……」
どこか皮肉気な笑いを見せて、雄基は首を横に振った。さっぱりしたような表情をしている。
「──とりあえず返事はまだいいから、一応考えておいてくれ。俺のこと、どう思ってるのか」
そこまで言って、きびすを返す。さっさと自分の荷物を持つと雄基は部屋のドアを開けた。出る直前に振り返り、ふっと笑って念を押す。
「来週、答えを聞くからな。風邪引いたとかって逃げるなよ」
「……!」
一気にワイルドな雰囲気になった雄基のあまりの変わりように、みのりは耳まで赤くなった。何だか熱が出て来そうだ。
ドアが閉じられ、雄基の背中が見えなくなったのを確認すると、みのりはその場にへたり込んだ。
首をかしげて答えると、真剣なまなざしを向けて来る。長テーブルを間にはさんでみのりの前に立った雄基は、妙な迫力をかもし出していた。困惑して彼を見上げると思いつめた顔で口を開く。
「前からずっと言おうと思ってたんだけど。……俺は、一ノ瀬のことが好きだ。昔から好きだったんだ」
言われた言葉の内容に、みのりはぽかんと口を開けた。
好き。
雄基君が、私を。
まったく思ってもいなかった告白に思考能力がかたまった。
……好きってどういう意味だっけ?
犬が好き。
イチゴが好き。
体を動かすことが好き。
脳でいらない例題が勝手にぐるぐる回り出す。「人名」+「好き」というあまり聞かない文脈に、少女マンガに出て来るような言葉のならびだなと考えた。
「──え?」
どうやらかなりの間中、黙ってまぬけ面をしていたらしい。ぼんやりとしたみのりの答えに雄基が深くため息をついた。
「やっぱり気づいてなかったのか。いくら何でも鈍すぎだろ」
見なれた雄基の表情がなんだかくだけた感じになる。がしがしと頭をかいて、少し照れたように顔をそむけた。
同年代の男の子らしい、気取らないその雰囲気に、みのりはさらにあっけに取られた。いつもみのりと自分の間に一本線を引いていたような、あのかた苦しい印象がきれいさっぱり消えている。まるで小学生の頃の空気にもどったようだった。
「バレンタインデーにチョコをもらった時、その場で伝えればよかったんだ。けど、その時は頭が真っ白になって……。次の週こそこっちから告白しようと思ったら、インフルで休んでるって言うし。仕方がないから、ホワイトデーにお返しと一緒に言おうと思ってたんだけど、今度は俺がインフルエンザで──」
「え? ほんとにインフルエンザ? 会いたくないから仮病を使ってたんじゃなくて?」
思わずたずねた内容にあきれたような目をされる。
「違う。本当はそれでも届けに行こうと思ってたんだ。でも母親に止められて、『かわりに届けてあげようか』なんてよけいなことを言われたせいで、腹が立って」
「ゆ、雄基君、今日はよくしゃべるね」
耳なれないはずの雄基の声が次々と聞こえる現状に、みのりはただただあぜんとしていた。思ってもみなかった今の状況に頭の中がフリーズして、そんなことしか思いつかない。
雄基はきっぱり言い切った。
「いくら黙って思っていても、ちゃんと言わないと通じない。やっとそれがわかったんだ」
ぽかんとしているみのりをながめ、開き直ったように続ける。
「かっこつけても仕方がないし、照れてるような場合じゃない。一ノ瀬相手ならなおさらだ。ここまで来てやっとそれがわかった。──それで、一ノ瀬はどうなんだ?」
再び真剣な声が響いた。うろたえて顔を見上げると、雄基の熱っぽいまなざしが見下ろすように見つめて来る。
「一ノ瀬はどう思ってるんだ、俺の事。少しは気にしてくれてるのか?」
十分上背がある彼のせまり来るような勢いに、みのりは背中を硬直させた。
今までの硬派な印象がまるで嘘だったかのような──いや、今までため込んで来た思いを一気にぶちまけるような告白に、みのりは完全にのまれていた。今度はこっちが「あ」とか「う」とか、そんな声しか出なくなる。
しばらくみのりの引きつり顔を雄基はじっとながめていたが、再び息をもらした後、みのりから一歩退いた。口元に小さく苦笑を乗せる。
「ごめん。ちょっと急ぎすぎた。こっちも少しあせってて。いきなりの告白だっただろうし、びっくりしたのはわかってる。一ノ瀬が何も気づいてないのは知ってたし……」
どこか皮肉気な笑いを見せて、雄基は首を横に振った。さっぱりしたような表情をしている。
「──とりあえず返事はまだいいから、一応考えておいてくれ。俺のこと、どう思ってるのか」
そこまで言って、きびすを返す。さっさと自分の荷物を持つと雄基は部屋のドアを開けた。出る直前に振り返り、ふっと笑って念を押す。
「来週、答えを聞くからな。風邪引いたとかって逃げるなよ」
「……!」
一気にワイルドな雰囲気になった雄基のあまりの変わりように、みのりは耳まで赤くなった。何だか熱が出て来そうだ。
ドアが閉じられ、雄基の背中が見えなくなったのを確認すると、みのりはその場にへたり込んだ。
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