【完結】インキュバスな彼

第一章 バレる前

８．

　小柄な男子に問いかけられて雄基が振り向き、目を見開く。
　その時、隣のイケメンが面白そうな口調で続けた。

「なんだ、彼女か」

　その一言で彼はかたまり、小さな声で否定した。

「……違う」

　気まずそうなその雰囲気にみのりはあわてて手を振った。

「あ、ごめん。じゃ、またね」

　それだけ言ってきびすを返すと、みのりはさっと立ち去った。
　友達が一緒にいたことに気づかなかったのはまずかった。お年頃である雄基としては、華道を習っているなどと緑陽の友達に知られたくないだろうし、「共栄の子に声をかけられてた」なんて周囲にいたずらにバラされて、誤解をまねかれたくないだろう。
　そして今回の一件だ。きっと雄基も耐えかねていたのだ。自分がもっと早くから気をきかせてやればよかった。

「お母さんには言いづらいだろうし、私の方から伝えておくから。大丈夫、私の都合で曜日を変えたいって言っとくから」

　あくまでも明るく伝えると、目を見開いていた雄基の顔がなぜかつらそうな形にゆがんだ。
　なぜだ。
　予想と違った反応に、みのりはぱちぱちとまばたきした。苦手だったみのりと離れられ、気が楽になっただろうと思うのに、自分を見下ろす雄基の表情はちっともうれしそうじゃない。
　雄基はみのりから顔をそむけた。

「──違う」

　低い響きのその声に、みのりは大きく目を見開いた。

「え？　違うって……。なにが」