【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第一章 バレる前

2.

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 とても人とは思えないような扱いを堂々と言い放つ音々に、みのりは頬を引きつらせた。

「いやあ……。やっぱ無理だよ。なんか、私嫌われてるみたいなんだよねー、その人に」
「えええー、あんた何したの。また不審者かなんかとまちがえて、今度は回し蹴りくらわしたとかじゃないでしょうね?」

 次々不穏な言葉が出て来る友人にこめかみを押さえつつ、みのりは小さくため息をついた。

「ちがうよ。──うちの華道教室の生徒でさ。お母さんの知り合いの子なんだけど、最近口もきかなくて……」

 みのりの家は商店街で生花店を営んでいて、母親は店の仕事のかたわら、華道教室を行っている。一応みのりも師範の腕前で、母親の教室がある日にはアシスタントをしているのだ。

「あー、そっち系の男子か。部活のほうの知り合いじゃなくて? だったら友達も同類だろうし……私、陰キャはちょっと苦手なんだよね」

 あきらかに興味をなくした音々に、みのりはやれやれと苦笑いをした。
 まあ、これ以上強引に「紹介しろ」と言われるよりは、そっちの方が都合がいい。

──最近、顔も合わせづらいんだよなあ。

 半日たっても内腿に響く筋肉痛に息をつき、みのりはぼんやりそう思った。

 その日は用事があったので、腿の痛みを引きずりながらみのりは早々に帰宅した。駅前の商店街にある、自宅兼店舗の「華一はないち」と記された店の裏口のドアを開く。
  幼い頃から知っているおばちゃん店員に挨拶し、みのりは二階の自室へ向かった。私服に着替え、店の奥にある教室用の部屋へ急ぐ。

 いくつか長机とパイプ椅子が並び、正面に大きな説明用のボードがあるだけのシンプルな部屋だ。花材の色を邪魔しない、白く明るい教室内にはすでに母親と先客がいた。
 二人とも今日の花材らしいモンステラの葉を持っている。新聞紙が広げられた机上には、練習用の花器とはさみ、それに季節の花が数本きれいにならべられていた。

「遅かったわね。もう雄基ゆうき君、先に始めちゃってるわよ」

 エプロン姿の母親のかつみが入って来たみのりに気がついた。細い眼鏡ごしにじろりと見られ、みのりは唇の端を下げた。
 結局今日の筋肉痛にあらゆる行動を制限されて、すべてが出遅れてしまったのだ。体育会系の部活動をしているみのりがこのありさまなのだから、ああいった行為はよほど普段とは違う筋肉を使うらしい。

「ごめん、ちょっと帰りが遅れて。今日は自由花じゆうか?」

 みのりと母親の会話を聞いて、母親の前に立ちはだかるようにしていた先客が振り向いた。大きな体をのけぞらせ、ぎょっとしたようにみのりを見る。
 細身の紺のブレザーに、緑色のラインが入ったタータンチェックのスラックス。昼間、友人と話題にしていた緑陽の制服姿の男子は、あきらかに動揺した表情でみのりの顔を凝視した。
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