【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

73.懐古八景 33

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 笑香はずっと考えていた。あの日、史郎が父親の手で殺されようとしていた時。
 あの情景を理解して、白い刃先が史郎の上に落ちて行こうとした瞬間、自分は父親ではなくて史郎の方を選んだのだ。
 壊れた笛の音のような激しい呼吸が喉から漏れた。目から涙がこぼれ落ち、次から次へと頬を伝った。

「私、お父さんにあんなひどいこと言っちゃって……。お父さん、あんなに仕事で悩んでたなんて知らなかった。それなのに、私……!」

 笑香はしゃくり上げながら訴えた。何も知らない子供の自分が父親に向かって放った言葉。

──お父さんなんてずっと仕事で、全然家にいなかったじゃない‼

「私、もうお父さんに謝れない……!」

 すすり泣きながら言いつのると、史郎が自分を抱きすくめている力がさらに強くなった。

「……おじさんは、最後に僕に『君はそこまで笑香のことを──』って、言ってくれた」

 史郎の口から明かされたつぶやきに笑香は瞳を見開いた。
 史郎はさらに言葉を重ねた。

「僕の思い込みかもしれない。だけど少しは僕の気持ちをわかってくれたんじゃないだろうか。許してくれた、とまでは思わないけど……。でも、僕はそんな気がする」

 断定の響きをはらんだ声で笑香の耳にささやくと、史郎は腕の力をゆるめた。両手で笑香の肩を支えて真正面から笑香を見る。笑香は自分の顎を上げ、涙でにじむ史郎の顔の眼鏡をかけた双眸を見つめた。
 史郎は言った。

「何となく僕にはわかるんだ。おじさんは君を恨んでなんかない。むしろ、君にあの時のことを後悔させたいなんて思ってないはずだ。──僕とおじさんのどちらかを選んだかなんて、そんなふうに思わないでくれ。おじさんも、そんなことは絶対に望んでないよ」
「本当に?」

 すがりつくような笑香の声音に史郎が深くうなずいて見せる。そして小さくため息を漏らした。

「……ごめん。ちっとも知らなかった。君がそんなふうに思ってたなんて。もっと僕の方がよく考えるべきだったんだ。僕は自分が君と一緒にいられるだけでうれしくて、それだけで──」

 首を左右に振った後、再び笑香の顔をのぞき込む。

「学校でも何かあったんだろ?」

 不意に続けられた史郎の問いかけに、笑香はひどくうろたえた。
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