【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

文字の大きさ
上 下
240 / 293
番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

68.懐古八景 28

しおりを挟む
 店で必要な物を買い込み、史郎のマンションへと帰る。目当ての物は確かにすべてスーパーマーケットにそろっていて、笑香は感心してしまった。

「あと、マカロンだっけ? それは僕が後で買って、来週持って行ってやるから」

 ビニール袋をぶら下げた史郎にさりげない調子でそう言われ、笑香は彼の横顔を見直した。
  どうやら彼が家に来ることに迷惑そうな態度を見せたのが、大分効いているらしい。今度は自分を「物でつる」という新しい手段を編み出した彼に、笑香はおかしさを隠し切れなかった。

 二人でマンションにもどった後、笑香が部屋でキャリーケースの中身を整理していると、買った食材を片付け終わった史郎が部屋に入って来た。すわり込んでいる笑香の横に何も言わずに膝をつき、無造作にその手をのばして笑香の足首を捕まえる。

「え!? え、ちょっと……!」

 なんの前触れもない彼の行動に、動揺した笑香はあわてて両手でスカートのすそを押さえた。
  史郎はつかんだ足首を引きよせ、笑香の薄い靴下を下ろした。赤くこすれたかかとを眺め、大きな手のひらを離してつぶやく。

「足。やっぱり靴ずれができてる。ほら、絆創膏」

 ぶっきらぼうにそれだけ伝え、持っていた絆創膏を二枚、笑香に手渡してくれる。

──史郎君、気づいてくれてたんだ。

 思い起こせば、史郎はバスを降りた頃から笑香が歩く速度に合わせ、ゆっくり歩いていたような気がする。正体を明かす以前のような彼の優しさを前にして、笑香は少なからず感動した。立ち上がった史郎の顔を感謝の思いを込めて見つめる。
 すると、史郎は唇の端をやや嫌らしくつり上げて言った。

「絆創膏、一枚につきキス一回ってことで。二枚だから二回だ。場所は僕が指定するから」
「……場所?」

 感動が薄れてしまった笑香が眉をしかめると、史郎は完璧な笑顔で答えた。

「キスする場所が口だとは限らないだろ? 君は僕が教えてやらなきゃ、口がどこだかもわからないみたいだし」

 言葉の意味が理解できずに笑香はまばたきを繰り返した。その後、以前史郎と行った水族館でのデートの際に、屋外で交わした彼との会話をやっと思い出して赤面する。

──まったく、本当にこの人は……。

「どうする? 絆創膏のお礼だったら、別に今でもいいんだけど。後がよければ宿題出して。ちゃんと持って来たんだろ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリー中です。楽しんでいただけたら投票で応援していただけると嬉しいです】 自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...