【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

49.懐古八景 9

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 仁王門から山門へは白い敷石が並ぶ石畳が続いている。その短くない道のりは、古刹へと向かう観光客の後ろ姿であふれていた。

「仲見世通り」と呼ばれるそこは、笑香にとって魅力的な、何種類もの食べ歩きができる開放的な店がある。また、門前町の風情が残る大小さまざまな土産物屋もぎっしりと軒を連ねていた。
 ふらふらとおやきを売る店に吸いよせられる笑香の姿に、史郎がこめかみを押さえて言った。

「さっき食べたばっかりだろ。大体蕎麦屋に行くんじゃないのか?」
「それとこれとは別だってば。大丈夫、ちゃんと計算して食べるから」

 店の売り場に視線を向ける笑香の返事に嘘はなく、史郎は手に負えない、とでも言いたげな顔で天を仰いだ。
  笑香は胸をおどらせながら、老舗の店先に並べられている幾種類ものおやきの中から、何を選ぼうかと思案した。その少しかがめた背中にとげのある声がかけられる。

「太るぞ。──言っとくけど、昨日けっこう重かったんだからな。これ以上重くなったらもうベッドに運んでやらないぞ」

 公衆の面前で放たれたとんでもない彼氏の発言に、真っ赤になって振り返る。
  周囲の微妙な雰囲気を悟って笑香はそそくさと先を急いだ。その後を大股で追いながら、史郎がにやっと笑って言った。

「今度どこかの店に寄ったらまた同じことを言ってやる」
「……!」

 彼の脅迫ともとれる言葉に、笑香は史郎をねめつけた。全く意に介さない様子で史郎は目線を前に向け、その先に見える山門を眺めた。

「結構遠いな。こんなに広いとは思わなかった」

 笑香は史郎の脅迫に屈し、指をくわえて左右に並ぶ店舗を恨めしく見つめていた。
 史郎は肩をすくめて続けた。

「帰りに僕がおごってやるから。とにかく先に参拝だけ済ませてくれ」
「……本当に?」

 彼女のすがるような瞳に、史郎が曖昧な表情でうなずく。笑香はあきらめのまなざしを両脇の店に投げた後、長く大きなため息をついた。

「善光寺」という有名な扁額のある見上げるような山門は、駒返り橋を渡ってしばらく歩いた先にある。だが石畳を歩いていた史郎は、その手前にある大きな露座の地蔵像に目を止めた。

「これ……」

 笑香は立ち止まって言った。

「ああ、有名な古いお地蔵様みたいね。確かロマンチックな言い伝えが……」

 笑香が雑誌で予習して来た内容を思い返していると、史郎が小さく微笑んだ。

「言い伝えは良く知らないけど。子供を守るとかって話で、支倉さんが教えてくれた。善光寺に来た時は、必ずこのお地蔵様に僕のことをお願いしてるとかで。──大したご利益はなさそうだな」

 言葉の内容は皮肉気だったが、その声はどこか優しかった。
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