【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

25.柳沢笑香の完璧な恋人 25※

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「‼」

 笑香は目を見開いた。何がどうなっているのかよくわからないが、とりあえずその衝撃に耐える。
 笑香の頭を抱え込んでいた強い力が離れて行き、どこか弱弱しいともとれる史郎の声が落ちて来た。まだ息が乱れている。

「ごめん。外に出すつもりだったのに……。それ、口から出して」

 目の前にある腰が引かれて、唇から長いものが離れて行く。
 口内にためたかたまりが口元からあふれそうになり、笑香はあわてて自分の唇を引きしめた。どうしていいかわからずに、目を白黒させて唇を両手で押さえる。

「そっち、排水口に出して。本当にごめん」

 どこか不明瞭に聞こえる史郎の声に従って、笑香は口中にあるかたまりを排水口へ吐き出そうとした。
 その時、千夏に教えられた「こうすれば男の人が喜ぶ」という行為を思い出してしまい、一瞬躊躇する。

──えーと。これを、どうにか……できるかな?

 笑香は両目を固くつぶると、息をしないようにしてその粘液を飲み込んだ。一度だけでは難しく、何回かに分けて嚥下すると、熱い液体がかたまりのまま喉の奥へと落ちていく。

「えっ、飲んだのか!?」

 笑香が今行ったことに驚いたような声が聞こえて、笑香は一瞬後悔した。こんなことをして恥ずかしい子だと彼に思われてしまっただろうか?
 だが、すぐに史郎の手のひらが笑香の頭に乗せられた。再び優しくなでられる。
 どうやら、逆に褒められたようだ。その後、あらためて舌の上の味を確認してしまい、鼻から抜ける青臭い味に今度こそ強く眉をしかめる。

「……まずい」

 笑香が言うと、史郎は力ない笑いを漏らした。その顔は少しぼんやりしていて、目の焦点が合っていない。
 初めて目にした、いつもは余裕たっぷりな史郎のどこか頼りなげな表情に、笑香は思わず笑みを浮かべた。

「──気持ちいい?」

 笑香の無邪気な問いかけに、浴槽に腰かけたままの史郎は、前へがっくりと頭を落とした。

「気持ち良すぎて、気が遠くなりそうだ」

 そのまま笑香に右手を振る。

「いいよ、先に出て。寒かったらシャワー浴びて。口の中が気持ち悪いだろ? 洗面所で口ゆすいで。僕はこのまま、もうちょっとここにいる。──足に力が入らないんだ」

 本当に力が抜けているらしく、いつもの皮肉気な声の調子が一向に感じられない。
 笑香は思わずにんまりした。なぜか史郎に勝った気がする。何に勝ったのかはわからないが、とにかく初めてのことだ。

「じゃあ、出るけど。風邪ひかないでね」

 言い置いて笑香は立ち上がった。ずいぶんと長い間浴槽の外にいた気がするが、ちっとも寒く感じない。
 最後にちらりと史郎の足の間に視線を落としてみると、まだ勢いを保ったものがてらてらと濡れ光っていた。
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