【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

文字の大きさ
上 下
146 / 293
第五章 夢の終わり

31.

しおりを挟む
 サッカー好きの湯浅さんと、サッカー馬鹿の勇人なら話が合うだろうと思ったが、やっぱり案の定だった。そういえば僕も中学の部活を選ぶ際、湯浅さんが好きだったという理由で、何となくサッカー部のドアを叩いたような覚えがある。

「湯浅さんも大変だな」

 僕が答えると笑香は思わせぶりな視線を向けた。

「もう一人、手のかかる子供がここにいるしね。──ミネラルウォーターくらい売店にあるので我慢しなさいよ」
「だって味が違うんだよ。湯浅さんも買って来てくれるっていうし」

 そう僕が言い訳すると、笑香ははいはいと僕の言葉を聞き流した。
 僕が笑香と再び出会い、同じ病棟ですごしていたこの二週間。僕は保護者代わりにつきそってくれている湯浅さんに、勇人と同じく甘えきっていた。そして、僕より重症の患者であるはずの笑香にも。

「湯浅さん、退院が決まって実は嫌がってるんじゃない? 学校が始まるまででも史郎君と一緒に住むのを」

 からかうように笑香に言われ、僕は唇のはしを下げた。何だか最近笑香が僕より年上のように接して来る。
 僕は、まるで今までの自分をすべて取っ払ったかのように、このゆるやかな時間の中で、笑香と湯浅さんの二人にわがままな自分をさらけ出していた。

 多少僕達の状態が落ち着いて今後の話になった時、僕は強硬にこの街に残ると湯浅さんに駄々をこねた。今までの状況が一変し、僕が長野に帰る理由が失われたことを盾にして、僕はこのままここに残ると湯浅さんに言い張ったのだ。
 困り切った顔つきで僕を眺める湯浅さんに、ベッドの上で寝ていた笑香はたしなめるように口をはさんだ。

『だめですよ、湯浅さん。先に史郎君の言うことを聞いたら。……それが史郎君の手なんです。私もだけど、それだとすぐに丸め込まれちゃう。話を聞かずにびしっと言うことを言ってやればいいんです。話を聞くのはその後です』

 僕はそれを聞いてふてくされた。
 笑香もずいぶん、僕に言うようになったじゃないか。

『じゃあ、笑香が僕と一緒に向こうでやり直すのはどうなんだ? 違う学校を探すから、笑香も僕と同じマンションで暮らして通えばいいじゃないか』

 一瞬僕の提案にゆらいだ目をした湯浅さんに、笑香はきっぱりと言い切った。

『だめよ、史郎君。せっかく編入が決まったんだし、全部準備もできてるのに』
『そんなのどうだっていいよ』

 湯浅さんへの思惑が外れ、ぷいとそっぽを向いた僕に、笑香はまるで小さな子供をさとすような調子で言った。

『史郎君、私達なら大丈夫。湯浅さんやおじさんのおかげで何とか生活も落ち着きそうだし。お母さんも頑張ってるしね』

 僕達二家族が住んでいた住居は結局このまま引き払い、笑香達も新しい住まいを探して、一からやり直すことになったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリー中です。楽しんでいただけたら投票で応援していただけると嬉しいです】 自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...