【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

23.

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 笑香が家に帰った後、僕はあらかた片づけを終え、夕飯用の買い物に出かけた。にぎやかな街は日が暮れて、クリスマス仕様のイルミネーションが華やかに夜を彩っている。

 勇人のリクエストに答え、家に帰ると早速シチューの下ごしらえを始めた僕は、ふと背後から聞こえたような小さな物音に顔を上げた。
 笑香だろうか。
 だがしかし、少し待っても誰もリビングに入って来ない。
 包丁をまな板の上に置くと、僕はテーブルの脇を通り抜け、リビングから廊下につながるドアを開いて玄関を見た。やはり誰か来た様子はなくて僕は思わず首をかしげた。

 キッチンにもどろうとして、僕は何気なくテーブルの上に目を止めた。今買って来た食材のほかに、テーブル上に置いていたはずのポットのコードがなくなっている。
 僕は小さく眉をよせた。確かポットで湯を沸かそうと一緒に持って来たはずなのに。落としたのかと、僕がテーブルの下をのぞき込んだ、その瞬間。
 僕の背後に影が立った。背の高い黒のスーツ姿。
 おじさん!?
 振り返ろうとした時に白い手袋が二つ見えた。まるでスローモーションのように、ぴんと張られたポットのコードが僕の目の前に迫って来る。

──おじさんに、殺される。

 そう思った次の刹那、細いコードが喉に巻きつき、僕の視界が赤く染まった。

「ぐっ、ふ、う……!」

 締まるコードに爪を立てようにも、治り切らない背中の怪我で肩に力が入らない。自分の意識が急速に遠のいて赤い視界が黒くなる。
 僕は思った。
 これがあの時、母さんが見た光景なんだ。
 あの時死んだ母の姿を震えるほどに身近に感じる。僕の脳裏に焼きついている、だらりと足を宙に浮かせた無残極まる母のしかばね。

──僕は結局、あの母親と同じ目に遭う運命なのか。

 コードにふれた僕の指先が次第に冷たくなっていく。そして文化祭の夜のように、僕は意識を手放しかけた。

──だめだ。

 僕の指先がぴくりと動いた。先ほど目にした笑香の笑顔が、鮮やかに僕の脳裏に浮かぶ。
 笑香。──笑香。えみか。
 僕は何度も名を呼んだ。
 僕は母さんとは違う。
 もうこれ以上、笑香を泣かせるわけにはいかない‼

 僕は全身の力を込めて勢いよく右の膝を上げ、背後にいるおじさんの足に自分のかかとを打ち落とした。
  声にならない悲鳴とともにコードの力がわずかにゆるむ。僕はそのまま、真後ろにあるおじさんの顔に頭を打ちつけた。
 白い手袋が僕から離れた。
 僕はふらりと前に倒れる体をその場に押しとどめ、精一杯の力でダッシュした。喉に絡まるコードが苦しい。右手でコードをつかみ取り、リビングの出入口を目指す。
 その時。
 僕のぼやけた視界の中で、リビングのペン立てが目に入った。
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