【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

16.

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 あの頃の僕の境遇に、まだ秘書としてかけ出しだった湯浅さんは同情してくれて、親族中に嫌われていた僕の面倒を見てくれた。
 新人いじめのさなかだった湯浅さんと、四面楚歌の目にあっていた僕は、たがいにしばしばなぐさめ合った。僕の叔父という名目で、小学校の学校行事にかけつけてくれたこともある。
 その後、僕は実家を離れ、湯浅さんは今では立派に父の秘書として働いている。
 僕がコーヒーを入れながら笑香にそんな話をすると、笑香はうれしそうに笑った。

「よかった。史郎君にも会いたい人がいるんだね」

 笑香の前向きな一言に、僕は自分の胸にじんわりと温かいものを感じていた。
 そうか。今まで気づかなかったが、こんな僕にも一つくらいは悪くない思い出があったのだ。

「史郎君が向こうで寂しい思いをしなければいいなと思ってたんだけど。少しだけほっとした」

 笑香の柔らかな微笑みに、僕はくすりと笑って答えた。

「もうそんな子供じゃないよ。……編入の手続きの中に身体測定があったけど、春から比べて五センチ以上背がのびてた。小学生の時からだと二十五センチだ」

「ずるいな。私なんて、六年生の時から五センチくらいしかのびてないのに」

 笑香が唇をとがらせる。そして、まるで自分を納得させるようにうなずいた。

「まあ、史郎君なら大丈夫よね。新しい家でも、学校でも」
「さあね。編入先の学校は県でも有名な進学校らしいし。実際、編入試験の問題もけっこう難しかったしね」

 何気ない僕の返答に、笑香がぽつりとつぶやいた。

「史郎君がいなくなったら、私は誰に勉強を教えてもらえばいいのかな」

 僕はこともなげに言い切った。

「何言ってるんだ。僕がいつでも勉強を教えるって言っただろ? ──毎週ここで君の勉強の進み具合をテストして、次の週までの宿題も出すから」

 きっぱり言った僕の言葉に、笑香はあっけにとられたように僕の表情を見直した。
 僕はにっこりと微笑んた。

「僕は毎週、君と勇人の家庭教師をするために、ここにもどって来るつもりだから。二人に勉強を教えてるんだし、文句を言われる筋合いはないだろ。大人なんて僕達が良い成績さえ取っていれば、大抵のことは許してくれるよ。……その勉強の合間をぬって、僕達が何をしていようとね」

 笑香が頬を引きつらせる。
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