【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

5.

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 僕は憂いに満ちたまなざしで勇人のけわしい顔を見た。それは、僕がはるか昔に通り過ぎたはずの感傷だった。

 風呂から出ると僕達はテレビの前に陣取って、結局行くことのできなかった最終予選の録画を見た。ぶかぶかの服を身にまとい、画面を真剣な表情で見ている勇人の横顔を眺めながら、僕はあらためて笑香に連絡した。一応、直接おばさんに許可を取ろうと電話したのだが、おばさんが電話に出なかったのだ。

『今、お父さんと話してる。仕事のこととお酒のことで。勇人を預かってくれてよかった』

 笑香の返事に僕はほっとため息をついた。これで少しは良い方向に行ってくれればいいんだが。

「お兄ちゃん、見た? 今の田中の先制点!」

 勇人に声をかけられて、僕はあいまいに微笑んだ。

「前半のPKでさ……」

 明るく僕に話をしていた勇人の会話が、ふと途切れた。やるせなさそうに目をそらす。

「やっぱり目の前で見たかったな。あの田中のゴール、お兄ちゃんと。お姉ちゃんも一緒にさ」

 つぶやくように言った言葉に胸がつかえる思いがする。勇人はきっぱりと言い切った。

「俺、やっぱりサッカー好きだ。お兄ちゃんとまたサッカーやりたい」
「わかった」

 僕はうなずいた。

「僕の怪我が治ったら、また公園でサッカーの練習をしよう。──お姉ちゃんも一緒に」
「今度約束をやぶったら、絶対に許さないからな」

 ふんぞり返って念を押す勇人に、今度は自然に微笑んだ。

    *

 そのままソファで眠ってしまった勇人の体を抱き上げて、僕は二階の部屋へ行き、自分のベッドに勇人を寝かせた。予想以上の勇人の重みに折れた肋骨が悲鳴を上げたが、何とか部屋に運び込めた。

 結局姉の方ではなくて、弟とこの部屋で寝るのか。
 未練がましく残る思いにほっとため息をつく。肩をすくめて邪念を払い、僕は父親の寝室へ向かった。自分用に布団を運び込むためだ。
  僕が入院している間、父親はこのほこりっぽい寝室で寝泊まりしていたらしい。昨日父親の気配が残る布団が嫌で干しておいたのだ。

 ベッドの隣に布団を敷いて、自分の今夜の寝床を作る。ふと思いつき、カーテンのすきまから外をのぞいた。木枯らしできしむ窓の向こうに笑香の部屋の明かりが見える。
 僕はスマホを手に取った。

『史郎君』

 一コールもしないうちに、笑香の柔らかな声が答える。
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