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第四章 文化祭
29.
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「それなら、早く治して退院しないと」
浮きたつ気分を抑えて言うと、笑香がからめた小指を放した。僕のパジャマの胸からのぞくコルセットにそっと指でふれる。
かすかな感触に反応し、僕は思わず吐息を漏らした。目の前で笑香の髪が揺れ、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「──史郎君が倒れた時、あなたが死んじゃったらって思ったら、息もできなかった」
ささやくような笑香の声。
離れようとした指を捕らえて僕はその手を引きよせた。笑香の顔が僕に近づく。
僕達は互いの唇で相手の感触を確かめ合った。一度離して、もう一度重ねる。笑香の背中に手を回し、僕は腕の力を強めた。さらに深いつながりを求め、笑香の柔らかな唇の間に自分の舌を差し入れる。
笑香の肩が一瞬震える。だが、抵抗しなかった。固い歯をわり、温かく濡れたその内側を僕はとがらせた舌でさぐった。
「……う」
僕はうめいた。背中の痛みももう限界だが、これ以上したら理性がふっ飛ぶ。
「大丈夫!?」
笑香があわてて僕から離れる。僕はさりげなく前かがみになると、怪我をかばうような姿勢を見せた。ここの所、禁欲的な生活をしていた僕には刺激が強すぎる。
「退院までには何とかするから。……色々と」
こらえ性のない自分自身に苦笑いしながらつぶやくと、笑香は不思議そうな顔をした。
*
その後、僕達は時間が許すまで互いの近況を語り合った。
「あのね。今日、剣道部の見学に行ってきたの」
うれしそうに話す笑香に僕は目を丸くした。
「剣道部?」
「うん。仲林さん、剣道部に入ってるの。私が経験者だって言ったら、ぜひ一度見学に来てって言われて。部員が足りないんだって」
僕は思わず笑いをこらえた。
「小学生の頃からやってたのに、一回も勝てたことがないって言わなかったのか?」
「中学では英語研究会だったとは言ったけど」
笑香が恥ずかしそうに答える。
昔おじさんの影響で、笑香は近くにある剣道場に通っていた。だが今一つやる気がなくて才能が発揮されなかったのだ。練習でできるはずのことが本番ではできないらしく、よくおじさんに発破をかけられていた。
「でも、今日行ったらすごく楽しそうだったし、歓迎してくれたからまた始めてもいいかなって。……お父さんも喜びそうだし」
なんとなく言葉に含みを感じて、僕はたずねた。
「笑香。おじさんに何かあったのか?」
笑香はわずかに視線を落とした。
「今、僕達の交際におじさんが反対なのはわかってる。正直に話してくれないか」
僕が改めて問いかけると、笑香の瞳に影が下りた。
浮きたつ気分を抑えて言うと、笑香がからめた小指を放した。僕のパジャマの胸からのぞくコルセットにそっと指でふれる。
かすかな感触に反応し、僕は思わず吐息を漏らした。目の前で笑香の髪が揺れ、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「──史郎君が倒れた時、あなたが死んじゃったらって思ったら、息もできなかった」
ささやくような笑香の声。
離れようとした指を捕らえて僕はその手を引きよせた。笑香の顔が僕に近づく。
僕達は互いの唇で相手の感触を確かめ合った。一度離して、もう一度重ねる。笑香の背中に手を回し、僕は腕の力を強めた。さらに深いつながりを求め、笑香の柔らかな唇の間に自分の舌を差し入れる。
笑香の肩が一瞬震える。だが、抵抗しなかった。固い歯をわり、温かく濡れたその内側を僕はとがらせた舌でさぐった。
「……う」
僕はうめいた。背中の痛みももう限界だが、これ以上したら理性がふっ飛ぶ。
「大丈夫!?」
笑香があわてて僕から離れる。僕はさりげなく前かがみになると、怪我をかばうような姿勢を見せた。ここの所、禁欲的な生活をしていた僕には刺激が強すぎる。
「退院までには何とかするから。……色々と」
こらえ性のない自分自身に苦笑いしながらつぶやくと、笑香は不思議そうな顔をした。
*
その後、僕達は時間が許すまで互いの近況を語り合った。
「あのね。今日、剣道部の見学に行ってきたの」
うれしそうに話す笑香に僕は目を丸くした。
「剣道部?」
「うん。仲林さん、剣道部に入ってるの。私が経験者だって言ったら、ぜひ一度見学に来てって言われて。部員が足りないんだって」
僕は思わず笑いをこらえた。
「小学生の頃からやってたのに、一回も勝てたことがないって言わなかったのか?」
「中学では英語研究会だったとは言ったけど」
笑香が恥ずかしそうに答える。
昔おじさんの影響で、笑香は近くにある剣道場に通っていた。だが今一つやる気がなくて才能が発揮されなかったのだ。練習でできるはずのことが本番ではできないらしく、よくおじさんに発破をかけられていた。
「でも、今日行ったらすごく楽しそうだったし、歓迎してくれたからまた始めてもいいかなって。……お父さんも喜びそうだし」
なんとなく言葉に含みを感じて、僕はたずねた。
「笑香。おじさんに何かあったのか?」
笑香はわずかに視線を落とした。
「今、僕達の交際におじさんが反対なのはわかってる。正直に話してくれないか」
僕が改めて問いかけると、笑香の瞳に影が下りた。
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