【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

文字の大きさ
上 下
105 / 293
第四章 文化祭

20.

しおりを挟む
──意識はまだもどらないんですか。
──頭を打っているようなので、念のため精密検査をします。入院の準備をお願いします。

 遠くの方で、誰かの話し声が聞こえる。

──連絡は? 実の父親だろう。いくら仕事でも問題があるんじゃないのか。
──あなたにそれが言えるの? 家のことも子供達のことも、みんな私一人に任せて。

 僕はうめいた。

(お父さん)
(お母さん)

 僕のことで、ケンカしないで。
 一旦会話が止まる。

──笑香にもくわしい話を聞かないと。
──あなた、もうやめてちょうだい。

 悲痛なおばさんの声の響き。

──あの子……。笑香は前にも同じような目に遭ってるの。お願いだから、これ以上あの子を傷つけないで。

 その懇願の内容に、心臓が大きくはね上がった。
 笑香。笑香は……。
 どこかで嗅いだことのある匂いがした。熟柿臭い、身の危険を感じる匂い。ぐ、と喉の奥が鳴り、僕は熱いかたまりを吐き出した。
 胃の腑がつかみあげられるような痛み。後から後から、体の中の苦い液体が胃から口へと込み上げる。
 僕の周囲がさわがしくなった。意識は再び暗い闇の中に飲み込まれた。

   *

 まぶたの裏が明るく白い。
 始めに僕が理解したのは笑香のおばさんの声だった。

「今日もいい天気ですね」
「ええ。洗濯物がよく乾いて、助かります」

 僕はゆっくりとまぶたを開いた。ぼんやりとした視界の中におばさんの横顔が見える。

「……あ」

 口の中が渇ききっていて、舌を動かすことができない。

「史郎君!?」

 おばさんの大きな声。高い声がそれに答えた。

「意識、もどられました? 先生をお呼びします」

 僕はごくりと喉を鳴らして乾いた唇を動かした。

「……おばさん。笑香は……?」
「大丈夫。もう大丈夫よ」

 答えた声は湿っていて、僕はおばさんに迷惑をかけたことを知った。

「すみません、僕……」

 しゃがれ声でそう言いかけると、おばさんが大きく首を振る。

「何も言わなくていいの。あなたが謝ることなんてないわ。安心してちょうだい、笑香は無事よ。史郎君、本当にありがとう」

 僕は小さくため息をついた。一度目を閉じ、ぼやけた意識を取りもどそうと努力する。
 あれからどれくらいたったんだ? 
 僕は再び目を開けた。おばさんの後ろに白い壁と、白いカーテンの仕切りが見える。窓から入る日差しの中で、僕は自分が病院のベッドにいることを理解した。

「今日は何日ですか」

 僕の問いかけにおばさんは答えた。

「月曜日よ。あなた、丸二日意識がもどらなかったの。お医者さんの話では、怪我以外に過労もあるって。明日もう一度検査をするから、どれくらい入院するかは結果を見てからって言われたわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリー中です。楽しんでいただけたら投票で応援していただけると嬉しいです】 自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...