【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第四章 文化祭

18.

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 不穏な空気はすぐにわかった。公園の薄暗い木立の中で、あざ笑うようないくつもの声と必死さを感じる女の声。

「返してください……!」
「いいじゃん。もう少し遊ぼうよ」

 小さな池の水銀灯がそばのベンチに揺れる複数の影を映し出している。
 人数は三人以上。四人。五人はいない。
 息を整えて様子をうかがう。酸欠にあえぐ呼吸に対して思考は氷のようだった。
 ここの公園を突っ切ればすぐ繁華街に出られるが、交番まで行くくらいなら学校にもどった方が早い。
 だが、冷静な判断はそこまでだった。

「だって君が『遊んでくれる人募集中』ってアプリで誘ったんでしょー? 西高にそんな話のわかる子がいるなんてさ。ぶっちゃけ期待してたんでしょ? オレらが声かけてくんないかなあって。でなきゃ、オレらのことちらちら見るわけないもんね」
「早くカバンを返してください」

 震えを抑えた聞き慣れた響きが下品な笑いにかき消される。
 
「やめて‼」
「あれ、下に着てるの男物? ……なーんだやっぱりビッチじゃん。そんなにもったいぶらないで、オレらにもやらせてよ?」

 木立の影で僕が見たのは、私服の男に後ろから二の腕をつかまれて、正面からはもう一人の男に開いたパーカーの中をのぞかれる、危うい笑香の姿だった。

「なんだよ、お前?」

 笑香のリュックをぶらさげた、北高の制服を着ている男子が、現れた僕をにらみつける。
 僕は黙っていた。

「史郎君!?」

 笑香の驚愕の言葉に、パーカーをつまんでいた長髪の男がにやりと笑う。

「もしかしてこの子の彼氏? うわ、かわいそう。知ってた? この子、誰にでもやらせるんだって。オレらにもちょっと貸してくれるかな?」

 すでに覚悟は決まっていた。にっこり笑って男に答える。

「ああ、いいよ」

 その場にいた男達が一瞬、目を丸くして僕を見る。

「──お前にできるもんならな‼」

 言った瞬間、そばの男子が僕に拳を振り上げた。僕はひょい、と身を引いた。
 これで正当防衛だ。
 僕は軸足に力を入れると、サッカーボールを蹴り出す感覚で男子のむこうずねを蹴り上げた。
  何の容赦もしなかった。つぶれたような声を上げ、奴がその場に寝転がる。

「……っな、この──!」

 殴りかかって来た二人目を避けられたのは、まださびついていない反射神経のたまものだった。二度、三度、相手の拳が突き出される。
 殴り合いは苦手だ。
 息を吐き出し、一歩踏み込む。足の方がリーチが長い。腰を落として相手の腹に、僕は全身の力を込めて右足の先を叩き込んだ。
 呆気にとられた顔のまま、長髪の男がバランスを崩してよろめく。しりもちをつくと腹を抱えてうずくまった。
 さすがに呼吸を荒げた僕に、笑香の背後にいた私服の男が叫ぶ。

「ふッざけんな、こいつがどうなってもいいのかよ‼」
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