【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第三章 夜の道で、僕を呼び出した君は。

18.

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 僕は思わず絶句した。
 笑香の声には一片の迷いも感じられなかった。

「史郎君はずっと一人でがんばって来たじゃない。史郎君の話を聞いて、私は決めたの。同じようにはできないかもしれないけど、いままで史郎君がやってきたことを今度は私がやろうって。それに私は一人じゃない。お母さんも勇人もいるし……」

 照れくさそうに言葉を続ける。

「史郎君も、私を手伝ってくれるでしょ?」

 僕は目をつぶった。無意識に、机に置かれた拳を握る。
 だから。
 だからあんなに必死になって勉強しようとしていたのだ。僕がうつろに毎日を過ごしていた間、笑香はずっと考えていたのだ。僕のことを、家族のことを、そして自分の将来のことを。
 僕があの時、笑香に黙ったままでいれば。

「僕があの時、君におじさんのことを話さなければ──」

 今までも、これからも、僕達はどんなにか幸せだったことだろう。
 漏らしてしまった心のつぶやき。だが笑香は首を横に振った。

「ううん、違う。それじゃ、私は何にも知らないままだった。お父さんのことも、史郎君のことも。史郎君が今までどんなに大変な思いをしてたかってことも、ずっと知らないままだった。だから、これでいいの。……これでよかったんだと思う」

 晴れやかに言う笑香の顔を、僕はまるで初めて見るもののように見上げた。

「……君は……」

 僕がどんなに冒涜しても、君はついに屈しなかった。

「君は、強いね」

 僕の言葉に笑香は頬を赤らめた。

「まだこれからよ。本当にできるかなんて、やって見なくちゃわからない。だから一緒に協力してね。今私が言ったことを本当にやっていけるのか。史郎君がそばで見てて」

 僕は立ち上がった。

「──約束するよ。ずっと君のそばにいる。僕がそばにいて、君を守るよ。今度こそ僕に手伝わせてくれ」

 今度こそ、僕は君を助ける。
 絶望の淵で立ちすくみ、ついには自らその深くまで沈んで行こうとした僕を、君は手を出して助けてくれた。
 今度は僕が君を守る番だ。僕は固く決意していた。
     *

「あー、喉かわいちゃった」

 屈託のない笑顔を見せて、笑香はずっと手に持っていたペットボトルのふたを開けた。腰に手を当て、ごくごくと喉を鳴らして飲む。妙に決まった笑香のポーズを僕は好ましく見つめていた。

「そういえば、前に言ってた『変なこと』って何なんだ?」

 ふと僕は思い出してたずねた。

「僕を呼び出した時、言ってただろ。最近変なことが多いって」

 笑香は表情をくもらせた。ペットボトルをテーブルに置き、僕の様子をうかがうように逡巡しながら口を開く。 

「あの……塾の休み時間に、男の子に声をかけられて……。『誰とでもつきあう西高の女』って、お前かって聞かれたり。帰りの時も、なんだか雰囲気がおかしくて」
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