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61.準備 2

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 その後、祭壇の準備をしながら立会人が来るのを待つ。グラタスは儀式に使う香油を皿に移し替えながら言った。

「私は今、黒い力を自分の中に封じています」

 祭壇に並ぶ燭台の炎が小さく揺れ動く。ジジッと音を立てて芯が焦げ、香油の匂いに香ばしくほのかな匂いが加わった。
「神官の力量にもよりますが、中に力をおさめるやり方は危険を伴う手段です。しかし、それだけに強い力もおびきよせて罠にかけやすい。……私の中にいるものは、ベッセラ邸にいたものでした」

 ミラはグラタスの顔を見上げた。その端正な横顔は祭壇のともしびに照らされて、どこか神秘的に思えた。

「薬棚の引き出しのようなものです。自分の体の奥に作った引き出しに力をしまい込む。それをしまったままにもできるし、取り出して使うこともできる。……まあこの程度の魔性なら、しまい込んだままにしておけば同化して消えてしまうでしょう。ただ、それは食べ物と同じで消化をするのに時間がかかる。少し疲労も感じるし、長く使えば多少はそれに自身の思考も引きずられる」
「──前に依り代になった時は大変なことになったでしょう? 本当に大丈夫なの?」

 不安を感じてミラがたずねると、グラタスは肩をすくめて答えた。

「あれとは比べ物になりませんよ。とはいえ、今話したように問題がないわけでもない。……ですからあなたが必要なんです」
「え? それって、もしかして」

 グラタスはミラに顔を向け、落ち着いた声で言葉を続けた。

「あなたの術で、私の中の力を消し去って下さい。前回の時と同じように」

 突如振られた不穏な言葉にミラが体をのけぞらせる。グラタスは苦笑いした。

「今回あった出来事は、あなたに危険が及ぶことでした。今の私は一介の師教です。今後は神官のまねごとを行うつもりはありません。──言ったでしょう? 『私の心の平安は永遠にあなたと共にあります』と。どうぞ今回だけは私にあなたの術を使ってください」

 ほんのわずかな沈黙の後、ミラは小さくうなずいた。
 祭壇の準備が終わり、立会人の到着を待つ。さまざまな色の花にかざられ、整えられた祭壇ははなやかな雰囲気を見せていた。祝いの式にふさわしいその壮麗な様相に、急遽花嫁になるミラも心の底からうれしくなる。
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