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54.探索 2
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ミラの住まいは、以前は祖母の部屋だった奥の寝室と、仕事や料理に使うストーブを置いた台所にわかれている。明かりをしぼったランプをかかげ、ミラはカウンターへ行く扉を示した。彼は無言で部屋を横切り、扉の方へ足を進めた。
「あの……グラタス。気をつけて」
ミラが小さく声をかけると彼は振り向いて微笑んだ。
「大丈夫ですよ。──何があってもあなたは部屋から出ないでください」
昨夜と同じく一人で向かう彼の背中を見送って、ミラはひそやかにため息をついた。
*
男はあせっていた。
やるべきことはわかっているし、成功させる自信もある。しかし、それをやりとげる心の落ち着きが欠けていた。
男には借金があった。すべて賭け事で作ったものだ。庭師としての生業でかなりの給金を得ていたが、現在手元に残っているのはこの仕事の前金のみだった。それさえ微々たるものであり、その原因は例によって負けが込んだ賭け事のせいだった。
夜陰にまぎれて目的の小さな店の前に立つ。手に持っていたカンテラがちらちらと光をはなっていた。だがそのたよりない明かりでは周囲もろくにうかがえない。男は何度も首を回して、誰もいないことをたしかめた。
「ねえ、本当にここなの?」
背後から女の声がした。同じくカンテラを手に持って、不機嫌な様子でたずねて来る。
「こんなところに本物の……」
自分とともにやって来た、やはり脛に傷を持つ女。男は声をひそめて答えた。
「先生に言われた場所はここだ」
閉店のふだがかけられた店の内部は真っ暗で、人の気配はうかがえない。店主の娘は情報通り、村はずれにある恋人の家を訪れているようだった。
周囲の様子を探りつつ、おそるおそる店の入り口に近づく。その場にカンテラを置いた後、忍び込むための窓を割った。ぎりぎり腕が入るくらいの小さな穴を心がけたが、案外派手に音が鳴る。男の背中がびくっとはねて、カンテラをけりとばしそうになった。
「ちょっと。落ち着きなさいよ」
横の女はあきれたようにおびえる男を叱咤した。ショールで顔をかくしてはいるが、流れるような身ごなしは到底農家の妻女に見えない。
女は館の侍女だった。仕事はできるが手くせが悪く、任されていた主人の物にこっそりと手をつけていた。それを主人付きの医師に見つかり、この計画に加担したのだ。
すでに女は仕事を辞める手はずを整えていた。自身の悪事がばれないうちに屋敷を逃げ出す算段だった。かせいだ金と盗んだ品物、この仕事の報酬があればしばらくは遊んで暮らせるだろう。
「あの……グラタス。気をつけて」
ミラが小さく声をかけると彼は振り向いて微笑んだ。
「大丈夫ですよ。──何があってもあなたは部屋から出ないでください」
昨夜と同じく一人で向かう彼の背中を見送って、ミラはひそやかにため息をついた。
*
男はあせっていた。
やるべきことはわかっているし、成功させる自信もある。しかし、それをやりとげる心の落ち着きが欠けていた。
男には借金があった。すべて賭け事で作ったものだ。庭師としての生業でかなりの給金を得ていたが、現在手元に残っているのはこの仕事の前金のみだった。それさえ微々たるものであり、その原因は例によって負けが込んだ賭け事のせいだった。
夜陰にまぎれて目的の小さな店の前に立つ。手に持っていたカンテラがちらちらと光をはなっていた。だがそのたよりない明かりでは周囲もろくにうかがえない。男は何度も首を回して、誰もいないことをたしかめた。
「ねえ、本当にここなの?」
背後から女の声がした。同じくカンテラを手に持って、不機嫌な様子でたずねて来る。
「こんなところに本物の……」
自分とともにやって来た、やはり脛に傷を持つ女。男は声をひそめて答えた。
「先生に言われた場所はここだ」
閉店のふだがかけられた店の内部は真っ暗で、人の気配はうかがえない。店主の娘は情報通り、村はずれにある恋人の家を訪れているようだった。
周囲の様子を探りつつ、おそるおそる店の入り口に近づく。その場にカンテラを置いた後、忍び込むための窓を割った。ぎりぎり腕が入るくらいの小さな穴を心がけたが、案外派手に音が鳴る。男の背中がびくっとはねて、カンテラをけりとばしそうになった。
「ちょっと。落ち着きなさいよ」
横の女はあきれたようにおびえる男を叱咤した。ショールで顔をかくしてはいるが、流れるような身ごなしは到底農家の妻女に見えない。
女は館の侍女だった。仕事はできるが手くせが悪く、任されていた主人の物にこっそりと手をつけていた。それを主人付きの医師に見つかり、この計画に加担したのだ。
すでに女は仕事を辞める手はずを整えていた。自身の悪事がばれないうちに屋敷を逃げ出す算段だった。かせいだ金と盗んだ品物、この仕事の報酬があればしばらくは遊んで暮らせるだろう。
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