【電子書籍化のため削除予定】闇堕ちしかけた神官をえっちな秘術で救ったら、ヤンデレ級のしつこさで結婚をせまられています

小波0073

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44.うわさ 1

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 再びミラに向きなおり、鋭い声で詰問する。幻覚作用がある植物の名前を出され、ミラは面食らった。

「ちがいます! たしかにカシェの実は夜光樹の種と似ていますが、木や葉の形はことなります。これは私が実を取って、日干しにした後炒ったものです。また、煎じた際の香りもカシェと夜光樹は違います。もしもまちがえたとしても、作る時に匂いでわかります」

 さすがにこれは専門分野だ。うたがわれてはたまらない。声高に答えるミラの横からグラタスもさらりと口をはさんだ。

「彼女が作る薬草茶はほかの村でも飲まれています。出入りの商人の話では、そんなおかしな症状はほかでは聞かないそうですよ。違う理由があるのでは?」

 押しつけにならない程度に切り捨て、理知的な瞳を光らせる。
 貴族の権威が効かない二人にプライドが傷つけられたのか、ビブルナムは明らかにむっとした。

「もういい、わかった。それではもう一度幻覚と茶葉をよく調べ、奥様にご報告する。追ってお前達にも連絡する。……行け」

 屋敷へ向かう小道に目をやり、あごで傲然と退出をうながす。いずまいを正し、グラタスは優雅なしぐさで会釈した。

「かしこまりました。私達の弁明をお聞き届けくださり、心から感謝いたします」

 ミラはグラタスの顔を見た。背筋はのばしているものの、すましたような表情だ。どこか余裕がうかがえるさまに余計に腹立たしくなったらしい。ビブルナムは舌打ちをしたが、それ以上何も言わなかった。

「──心細い思いをさせましたね。すぐにもどれると思ったのですが、少々時間がかかってしまって。すみませんでした」

 白い小道を歩きつつ、生真面目な声でグラタスが謝る。まだどきどきと脈打っている胸に手を当て、ミラは笑った。

「いいえ。助けてくださって本当にありがとうございました。私だけではきっとお医者様に信じていただけませんでした」
「そうですか、それならよかった。では今度こそ礼が期待できそうですね」

 言われた言葉に視線を上げると、その口元が笑っている。
 いつも通りの彼の様子になんだかミラはほっとした。が、あえてそっけなく答える。

「それはまた別の話です。今度お店にいらっしゃった時、お茶代はいただきません」

 ミラのつれない反応にグラタスはくっくっと喉を鳴らした。

「では半日ほどいすわって、おかわりを何度もすることにします。──これで用事はすみました、早く村へ帰りましょう。今なら明日の拝礼に間に合います。それに、子供達に出した宿題の文字の添削がまだなんです」

 ミラはくすっと笑いをこぼした。師教としての仕事には、村の子供に読み書きを教えることも含まれる。意外に子供好きらしい新米師教の評判を、ミラも好ましく聞いていた。
 手入れのされた木々の間に紫色の夕暮れが迫る。二人は自然によりそいながら、屋敷へともどる道をたどった。

     *

「実は先ほど、アレカの弟に呼び出されてしまってね。弟の家に住んでいる母の具合が悪いらしい。前回通りかかった際も母の見舞いができなくて、『今度こそ顔を出せ』と言われて。悪いが、今夜はこちらの屋敷で休ませてもらってくれないか」

 このまま村に帰れると思い込んでいたミラは、ホールで待っていたサイランのすまなげな声に目をむいた。
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