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32.仕事 2

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 村長であるサイランは明るく実直な人柄で、今は天涯孤独のミラの親代わりにもなっている。一人で暮らすミラの様子をことあるごとに心配し、家族ぐるみで面倒見てくれる。
 ちなみにリアトリスの父親であり、ミラの亡くなった父親の大の親友でもあった。また、本業では雑貨商を営んでいて、村の中にある店のみならず手広く商売をやっている。愛想はいいが芯の強い、見識の広い村長なのだ。

「まあ君達もかけたまえ。師教様、もしよろしければご一緒に」

 ミラはグラタスと目を見合わせた。休戦に同意したらしく、しぶしぶと言った雰囲気でグラタスもいすに腰をかける。
 グラタスからやや離れてすわり、ミラは改めてサイランにたずねた。

「急ぎとおっしゃっていましたが、一体何のご用でしょうか?」
「ああ。実は商売の話でね。『君の薬草茶が欲しい』とまとまった数を頼まれて」

 愛嬌のある丸い目がミラの方へと向けられる。思ってもみなかった要件に、ミラはまばたきをくり返した。
 雑貨商としての仕事の中で、サイランはミラが作ったお茶をいい値で仕入れてくれている。滋養がある上に香りが良いと村の外でも評判で、本業の薬より注文が多い。現在ミラの収入の半分はそれでまかなわれていた。

「はあ……それはありがとうございます」

 そうお礼を言いつつもミラは少々拍子抜けした。一瞬グラタスの時のような緊急事態かと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。むしろ今の危機的状況を何らかの事情で察知して、わざわざ助けに来てくれたのだろうか?
 ミラの心情を察したらしく、サイランはわずかに苦笑した。

「たしかに商売の話なんだが、実はそれだけじゃなくってね。そうおっしゃって下さった方が少々問題で……」

 サイランはいすにすわり直すと、柔らかい口調で言葉を続けた。

「私が商売の一環で、ご領主様のお屋敷にも出入りしていることは知っているね? お屋敷にいる侍女の間で君の薬草茶がはやっていて、注文が増えたことも話したね。実はどうやらお茶の話が奥様の耳にも届いたらしく、直々に注文を頂いたんだ。──奥様は最近体調がすぐれず、あまり食が進まないらしい。そんな時、ちょうど侍女が飲んでいたお茶に興味を示されてね。そんなに評判のいいものだったら一度口にしてみたいと」

 思いがけない話の内容にミラは瞳を丸くした。
 おだやかな顔でサイランが続ける。

「ただ、一応お医者様の許しを得たいとおっしゃって。お茶の内容と効用を医者と自分に説明して欲しいと……私も一度、お医者様にお茶の説明をしたんだよ。しかし、やはり作った者の話を直接聞きたいということで。──もしよかったら私と一緒にお屋敷まで行ってくれないか?」
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