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19.神殿 1
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白い石づくりの建物の一角で、苦労の多い老神官はため息をつきつつ歩いていた。
彼の名前はシャガといい、神官達の監督官をつとめる高位神官だ。
ここは「白の棟」と呼ばれ、女神シランの神殿にある高位神官の居住の場になる。中庭を囲む回廊を渡ると、この建物で一番高い物見の塔に行きあたる。
シャガがしぶしぶ向かった先は、現在療養中であるグラタス補佐官の部屋だった。若いが優秀な経歴により監督官の補佐を任ぜられ、個室も与えられている。彼が落ち着いている場所は、補佐官が管理する塔の最上階にあたっていた。
塔の一階に作られた面会室を通り抜け、わきにある急な階段をシャガは重い足取りでのぼった。もう年だから疲れるし、ムダ足なのがわかっているから正直なところ行きたくないのだ。
目的の部屋の前に立ち、シャガは思わず首をかしげた。
床についているはずの彼の部屋から音がする。大きく肩をすくめた後、シャガはあめ色にみがき込まれたドアを乱暴にノックした。
「ドアが壊れます。入って下さい」
いつものようによく通る落ち着いた彼の声がした。犯人はわかっているらしい。静寂が基本の祈りの場において、こんな無作法なまねをする高位神官は他にいない。
ドアを開くと案の定、グラタスは寝台から起き上がっていた。しかし予想をしていたはずのシャガはその目を丸くした。
「いったい何をしてるんだ?」
普段は必要最低限の家具が置かれているだけの、殺風景な彼の部屋。が、今はつみ上げられた荷物で足のふみ場もなかった。そなえつけの本棚からは大量の本があふれ出し、板張りの床がまったく見えない。
「大変申し訳ありません。見てのとおりの取り込み中です、用件は手短にお願いします」
寝ているはずの病人は、机の前で背筋をのばして書簡のたばをあらためていた。かと思えば木箱にきびきびと書棚の本をつめている。その横顔と長身はよく知っているはずのものだったが、今の中身は以前の彼とはまったく別の人間だった。
長く神官をつとめるシャガの(一応)不肖の弟子であり、仕事の上では右腕でもある彼の現在の状況に、シャガはもう一度ため息をついた。
「さっきから何をしてるんだね」
「荷物の仕分けと引継ぎの準備をしていました。一刻も早く終わらせなくては」
短髪の顔を伏せたまま目線もよこさない彼に、シャガは思わずこめかみを押さえた。
彼の名前はシャガといい、神官達の監督官をつとめる高位神官だ。
ここは「白の棟」と呼ばれ、女神シランの神殿にある高位神官の居住の場になる。中庭を囲む回廊を渡ると、この建物で一番高い物見の塔に行きあたる。
シャガがしぶしぶ向かった先は、現在療養中であるグラタス補佐官の部屋だった。若いが優秀な経歴により監督官の補佐を任ぜられ、個室も与えられている。彼が落ち着いている場所は、補佐官が管理する塔の最上階にあたっていた。
塔の一階に作られた面会室を通り抜け、わきにある急な階段をシャガは重い足取りでのぼった。もう年だから疲れるし、ムダ足なのがわかっているから正直なところ行きたくないのだ。
目的の部屋の前に立ち、シャガは思わず首をかしげた。
床についているはずの彼の部屋から音がする。大きく肩をすくめた後、シャガはあめ色にみがき込まれたドアを乱暴にノックした。
「ドアが壊れます。入って下さい」
いつものようによく通る落ち着いた彼の声がした。犯人はわかっているらしい。静寂が基本の祈りの場において、こんな無作法なまねをする高位神官は他にいない。
ドアを開くと案の定、グラタスは寝台から起き上がっていた。しかし予想をしていたはずのシャガはその目を丸くした。
「いったい何をしてるんだ?」
普段は必要最低限の家具が置かれているだけの、殺風景な彼の部屋。が、今はつみ上げられた荷物で足のふみ場もなかった。そなえつけの本棚からは大量の本があふれ出し、板張りの床がまったく見えない。
「大変申し訳ありません。見てのとおりの取り込み中です、用件は手短にお願いします」
寝ているはずの病人は、机の前で背筋をのばして書簡のたばをあらためていた。かと思えば木箱にきびきびと書棚の本をつめている。その横顔と長身はよく知っているはずのものだったが、今の中身は以前の彼とはまったく別の人間だった。
長く神官をつとめるシャガの(一応)不肖の弟子であり、仕事の上では右腕でもある彼の現在の状況に、シャガはもう一度ため息をついた。
「さっきから何をしてるんだね」
「荷物の仕分けと引継ぎの準備をしていました。一刻も早く終わらせなくては」
短髪の顔を伏せたまま目線もよこさない彼に、シャガは思わずこめかみを押さえた。
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