蛍光グリーンにひかる

ゆれ

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(つうか)

 あんなにいろいろ相談してしまって、相手がばれていたなんて。プレイについて訊かなかったのがせめてもの救いか。否それでも負った傷が深手すぎる。だって家族だ。下ネタだってろくにしないのに、これから気まずくて麗一の話は絶対できなくなった。

「なんで勝手に弟に会ったの」
「やっぱり、わからない?」

 わからないから尋ねている。空護は堂々とそういう顔をしたが、麗一はおろか天満までもが何か言いたそうで言えなそうな、残念な表情をするので困惑する。
 この取り合わせで疎外感を味わうのがよもや自分になろうとは。もう全部一回リセットして、何も情報がない状態から疑問はくちに出して、当人に解消してもらうのが一番いい気がした。空護はそれがいい。

 最たる謎は、ふたりが今こうして並んでいる理由だ。

「麗一が言ってたSwitchの子が、天満だったってこと?」
「うーん……半分違う、かな」
「押してダメなら引いてみたらって俺が言ったんだ。鈍感な兄貴には、そのくらいやんないと効かないよって」

 だから天満といるところを見せたかっただけで、本気でプレイを試す予定はなかった。

 波知乃に呼び出されたのも作戦の一端だったらしく、まんまと術中に嵌まり込み、のこのこ現れた自分が情けなかった。絶句する空護を気にも留めず食事に集中するあたりもさすが家族の雑さだ。弟の横で、麗一のほうはすこし眉を下げている。

 パートナーですと名乗って家族に会う。空護なら、さしずめ麗一のご両親が相手だろうか。まるで結婚するときの挨拶みたいだが、自分達でも当てはまるのだろうか。

「星子さん、さっきの兄貴の顔見たでしょ」
「え?」
「……まあ」
「この人がこうなのは、恋愛に一番興味ありそうな時期に俺のために働きづめだったからだと思うんだ。生きるのに精一杯でそれどころじゃなかったんだよ」

 それは、当たらずとも遠からずなのかもしれない。小遣いがなかったのもあるけれど、弟の世話をしたり面倒を見てくれた人達の手伝いをしたりで、友人の誘いはいつも断らざるを得なかった。

 だから周りが告白だ彼女だと盛り上がり、幸せそうにしている様子が羨ましかった。いつか自分にも好きなひとができるのだと漠然と思っていたのだ。そのためにはまず外見も内面も磨いて、出会える場所に赴いて、気遣いや駆け引きをこなさなければならないとはつゆ知らず。

 大人になってもまだあの頃とおなじ、ただ生きているだけだった。それで麗一が見つけてくれたのは物凄い確率の偶然だったのだと今ならわかるし、やはりダイナミクスの御蔭なのだろう。そこだけはちょっと淋しい。

 縦に三つほど積み上げていたバーガーを完食し、丁寧に口元を拭いてから天満はメロンソーダを飲み干す。子どものときからずっと飲んでいるなあと兄はほほ笑ましく見守っていた。いつまでもかわいい大切な家族。

「兄貴は何でもひとりで決め過ぎだから。自分のことはともかく、星子さんのことやふたりのことまで、自分ひとりで答えを出すのはどうかと思うよ」
「……なに急に」
「込み入った話は弟の前じゃしづらいだろうから、俺はこれで。今日は回しにいくから遅くなるよ」

 じゃね、と軽い感じで去っていく。テーブルはきれいに片付き、空護のコーラと麗一のコーヒーだけになった。すると一気に疲れが襲ってきて、人前だというのにあおい息を吐いてしまう。

 正直これまで不可侵領域だったのだ。向こうはどうか知らないが、すくなくても空護にとっての天満は。それが知らないうちに面識をつくられたり別の顔を知られたり、剰え助け船まで出されてしまうなんて。人間としての成長なのだとしても素直に喜べない。

 言われた通り、何でも自分で決めて行動してきたから。近くで見ていたふたりにおなじ指摘を受けたとあれば、反論の余地はない。独断専行も認めるしかないだろう。おずおずと空護が眼をあげると、麗一はこちらを見ていた。

 視線がかち合う。本当に、目の前に本物がいる。起きたら消える夢じゃない。
 それだけで笑みがこぼれた。

 何かを欲しがることは恥ずかしいと思っていたけれど。

「麗一、あの……プレイ抜きでいいから、また会ってくれる? 俺はそうしたいって思った」

 ただ一緒にいるだけでいい。
 他のプレイメイトがいても、パートナーがいてもかまわない。それだけでいいから。

 勇気を振り絞ったつもりだったのだが、返ってきた麗一の声はかたく強ばっていた。

「俺は空護と友達になりたいんじゃない」
「そう、か……」

 腹を割って話せばなんでも通じるわけでもないようだ。おなじ相手に二回も振られるのはきつい。必死に平気な顔をするけれど、喉の奥がずきずき痛んだ。

 絶対的に経験が足りないので、ここからどう崩せばいいか思いつきもしない。詰んでいるとしか感じられない。唇を引き結んだ空護はテーブルの上でぐっと拳を握った。
 もうこれで最後なら気持ちはすべて伝えなければ。言葉をさがし、掠れながらも想いを告げる。

「ずっと、あなたの好意に甘えてたことは、ごめん。やっぱり俺じゃ相応しくないかもしれない。結局時間を無駄にさせる羽目になったのも、俺がよくわかってないから」
「空護」
「……うん?」
「プレイ抜きでも会いたいのって、なんで?」
「それは……麗一といるのが好きだから」

 するりと言葉がくちから出ていた。
 
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