蛍光グリーンにひかる

ゆれ

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 しばらくおとなしくしていた麗一が、ややあってゆっくりと腰を離したときに波がまた来た。

「アッ……んんっ」
「うわ」

 抜き取られたところがものを食むようにうごめくのが自分でもわかって憤死しそうだ。とうとうソファに倒れ込んでしまった空護に、麗一が顔を近づけてくる。意図は感じたので空護からキスしてあげた。

 急にどうしたのだろう。貪欲というか淫らな反応をした身体に空護が一番びっくりしていた。ふと気づいてスキンに手を掛けたが中身がない。濡れているだけだ。

「あれ……」

 もしかして出なかった? 直前に一回出したとはいっても、あんなにしっかり達ったのに?

 動けない空護のかわりに麗一が身体を拭いて、後片付けをしてくれる。喉の渇きまで癒されて至れり尽くせりだ。一体どちらがプレイの主導権を握っていたのかわかりやしない。「お腹減ってない?」と訊いてくれるので、ついでに食事もお願いしてしまう。

 今のような仕方で絶頂するとこんなふうに動けなくなる。経験してそれは識っていた。使うところだけ脱いでしていたので袖口に謎の濡れがあったりさまざまな匂いが移っていたりで、どのみち着替えたほうがよさそうだ。でもまたするかもしれないし。自然とそう考えてしまって、ひとりで赤面する。

 手ずから欲を満たすこともあまりない空護は淡白なのだと自己分析していた。とんでもなかった。知らなかっただけだ。麗一が求めるから、と人のせいにしているけれど事実ではない。堕落しかけているのかもしれない。

「うわー……」

 なんか俺、ちょっと間違えたらヤリチンなってたかも。快楽に簡単に敗けそうで、誠実でいられるのか自信がなくなってきた。これが麗一だからならいいのだが、他の誰でもきもちよければなどという体たらくだったらどうしよう。試すのも恐ろしかった。

 腹の底のあたりがあたたかく、そこから全身にけだるくも幸せな疲れが満ちる。巡っていく。吐く息もまだ熱を帯びて色づくような、しっとりとした雰囲気をまとって空護はぼんやりしていた。紅葉の美しい外の様子を眺めていたのかもしれないが、意識はしてない。

 やわらかい声に呼ばれてダイニングに移動した。覚束ない足取りを眩く見つめられて、麗一が引いてくれた椅子に注意して腰を下ろす。

 テーブルの上にはきれいな色のオムレツと、まだ温みのあるカットしたバゲットと熱いミネストローネ、蒸し野菜が並べられていた。とたんに空腹をおぼえて手を合わせる。

「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」

 空護も料理をするので正直誰かが作ってくれるものはなんでも美味しいのだが、麗一は本当に腕がいいので何を食べてもくちに合う。世の中に美味しいものを提供する仕事をしているだけある。自身が食べるのが好きとも言っていたので、研究に余念がないのだろう。

 天満にも食べさせてやりたい。だが急に麗一を引きあわせても、関係性をどう説明したものかわからない。プレイメイトと真実を告げるのは勇気が要った。相談事はしていても、実際にどういう相手か知られるのは気恥ずかしい。天満からも紹介されたおぼえはなかった。

 家を空けているので思い出すたび連絡は取っている。友達の家に泊めてもらったり、泊まりに来たり、困ることなく自由にしているようでよかった。ひとりでいられるほうがちゃんと食べているか心配なので、レイラなどにも日頃から食生活を見張ってくれるよう根回ししていたりする。

「すごいうまいよ」
「うん、俺も、おいしかった」
 すてきな笑顔で優雅にのたまうが、内容はどう受け止めていいものか。濁して食べ進めていると尚も麗一は言葉を継ぐ。

「空護くん、中イキできるようになってたね」
「……何て?」

 いや俺は男だし。と言うと「知ってるよ」と返された。うん、そうだよな。じゃあ訂正してくれるかな。

「現にしてたくせに何言ってんだか」
「え、俺が? ……あれそういうことだったの?」

 腰がフワついて動けなくなるのもあるけれど、言われてみると出すときの感じとは微妙に違う気がする。素人の初心者なので詳細は知らないがあくまで体感レベルの話だ。

 これまで掘り下げなかったのは無論ある。聞けば誠意を示して麗一はなんでも答えるのだろう。でもこうして、意図しないところから空護より前にも男と経験がありそうなことを知ってしまうのは嫌悪感が激しかった。スプーンを持つ手が動かなくなる。

 自分だって潔癖でもなかったくせに、しかも年の離れたいかにもモテそうな男に、誠実さを求めるなんてどうかしている。否、厳密には不誠実なわけじゃない。知り合う前の行動など麗一の自由に決まっているし、空護は現状くちを出せる立場にないのだ。

 だからひとりでモヤモヤするだけ。

「嬉しいなあ」

 人の気も知らないで、とここで恨むのは筋違いだった。空護がこれだけ性生活に満足させてもらっているのはその“過去”の御蔭なのだろうし。

 三人のうち誰かは男のSubだったのかもしれない。妄想は進んでいく。頭の中で麗一が自分以外の男にやさしくわらいかけている。いやだと思うのに、彼からは空護が見えない。まだ出会ってなかったから。
 
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